「日本語レキシコンの文法的・意味的・形態的特性」研究発表会の概要
- プロジェクト名
- 日本語レキシコンの文法的・意味的・形態的特性 (略称 : 日本語レキシコン)
- リーダー名
- 影山太郎 (国立国語研究所長)
- 開催期日
- 平成23年 12月24日 (土) 10:30~16:30
- 開催場所
- アプローズタワー1408 関西学院大学 大阪梅田キャンパス
発表概要
若手研究者育成および東日本大震災被災地支援活動の一環として,大学院生の発表を含める。
10:35-11:15「統語的複合動詞構文の格付与について」岸本 秀樹 (神戸大学)
統語的複合動詞構文は,一つの節の中に動詞が二つ現れるが,項は,単純な動詞が現れる節と同じような配列を示した。それで問題となるのが,複合動詞の項の生起がどのようにして認可されるかということであった。本発表では,特に,格については,前部動詞と後部動詞によって与えられる場合があり,そのことが,コントロールと上昇の区別および,受け身などの統語操作の可能性と相関することを論じた。
11:15-11:55「主語一致の原則と主体的移動を伴う事象を表す複合動詞」松本 曜 (神戸大学)
語彙的複合動詞について,主語一致の原則と,それに対する意味的制約について述べた。課題としては2つあり,まず,意味的な制約をどのように述べるか,また,主語一致の原則などの一般的制約をどのように位置づけるかというものでる。意味的制約については,フレーム理論を用い,またイメージスキーマによる意味表示などを行うことによって説明した。イベントスキーマの上位スキーマと下位スキーマを想定し,主語一致の原則を説明した。前項動詞が主要部の複合動詞でも,主語一致の上位スキーマにカバーされ,またフレーム的整合性によって制約を受けることがわかった。
11:55-12:35「語彙的・統語的複合動詞のエントロピーおよび冗長度指標からの考察」玉岡 賀津雄 (名古屋大学)
クロード・シャノンの通信の数学理論で知られるエントロピーと冗長度という二つの指標を用いて,語彙的/統語的複合動詞の新聞と小説のコーパスにおける特徴と両者の違いを検討した。話の内容は以下の論文に準拠していた。Tamaoka, Katsuo, Hyunjung Lim and Hiromu Sakai (2004). Entropy and redundancy of Japanese lexical and syntactic compound verbs. Journal of Quantitative Linguistics, 11(3), 233-250.
13:35-14:15「日本語とトルコ語の複合動詞の対照 (仮題) 」栗林 裕 (岡山大学)
日本語は V+V 型の複合動詞が非常に豊富に見られるのに対して,同じ SOV 言語で,同じ膠着的性質を持つトルコ語には V+V 型の複合動詞の数が非常に限られていた。この問題に対して,両言語における形態構造や複合化の違いに着目しつつ,現時点で考えている試論を提案した。
14:15-14:45「日本語と朝鮮語の複合動詞研究における問題点 (続) 」塚本 秀樹 (愛媛大学)
なぜ,日本語では,補文をとる複合動詞があり,複合動詞が多種多様になっているのに対して,朝鮮語ではそうではないのか,ということを明らかにすることを目指した。その際,動詞連用形及びその他の接続形式に関する両言語間の相違に着目し,それを解明の切り口とした。
14:45-15:15「中国語の「偏正式複合動詞」の再分類 ―構文による「動詞度」の検証―」葉 秉杰 (ようへいけつ) (東北大学院生)
日本語で動詞に使える複雑述語は「洗い落とす」や「押し開ける」,「掻き混ぜる」といった複合動詞のほかに,「立ち読み」や「飢え死に」といった動詞由来複合語 (deverbal noun) があった。特に動詞由来複合語は「動詞+動詞」のみならず,「名詞+動詞」 (e.g. 昼寝) や「形容詞+動詞」 (e.g. 早食い) などの複合も可能であり,多種多様な複雑述語が作られていた。
これに対応した中国語にも合唱 (hechang 合唱) ,竊聽 (qieting 盗聴) ,自白 (zibai 自白) 槍殺 (qiangsha 銃殺) といったいわゆる「偏正式複合動詞」がある。これらの複合語は形態的にも主要部が後項にあるので,動詞と判定されるが,筆者の考察によれば,この「偏正式複合動詞」の中でも,一音節の動詞と比べて一,複合によって目的語が決まっており,文に現せなくなるもの (e.g. 海釣,盲打) と二,複合によって元の目的語が取れなくなるもの (e.g. 合唱,晨跑) と三,一音節の動詞とほぼ変わらないもの (e.g. 槍殺,緊握) などがあり,さらに分類する必要があることが判った。
但し,中国語には日本語のような活用変化がないため,品詞の決定は文に出現する位置によることになる。本発表では「偏正式複合動詞」を様々な構文に当てはめ,様々な複合語の「動詞度」を検証しながら,従来の「偏正式複合動詞」という主張に対して問題提起を行った。
15:25-15:55「 複合動詞におけるフレームの融合」陳 奕廷 (Yi-Ting Chen) (神戸大学院生)
本研究は認知言語学的アプローチにより,複合動詞の形成をV1とV2の意味フレームの融合と考え,複合動詞には V1 + V2 全体で一つの整合性を保った意味フレームを構築する必要があるという制約が存在すると主張した。
15:55-16:25「日本語の複合動詞文「AがBと (お互いに) V+合う」に関する統語論的考察」小菅 智也 (東北大学院生)
本発表では,「V1 + 合う」は V2 が補部に vP を選択し,その vP の Spec には pro が生じる構造をもつこと,空演算子とその再述代名詞である「お互いに」は照応形であること,また,(1) と (2) はそれぞれ別の基底構造を持つこと,「お互いに」は V1 または V2 の項として意味役割と格を認可されなければならないことを仮定することで,「(2) BがAと (お互いに) V + 合う」の形式が容認可能である文と容認不可能である文の間の対比を統語論的に説明できることを論じた。