「複文構文の意味の研究」ワークショップの概要
- プロジェクト名
- 複文構文の意味の研究 (略称 : 複文構文)
- リーダー名
- 益岡 隆志 (神戸市外国語大学 教授 / 国立国語研究所 理論・構造研究系 客員教授)
- 開催期日
- 平成23年12月17日 (土) 13:00~17:20
平成23年12月18日 (日) 10:30~16:00 - 開催場所
- 大学共同利用施設「ユニティ」 セミナー室 (4) (神戸市西区学園西町1丁目1-1ユニバープラザ2F)
発表概要
今回は,研究発表6件と招待発表4件,合わせて10件の発表が行われた。
研究発表は,語用論にかかわる発表が2件 (長辻幸氏「現代日本語のタリに関する一考察―並列節マーカーの語用論的分析―」,及び,横森大輔氏「相互行為の資源としての複文構文の意味―カラ節とケド節の言いさし現象の考察から―」) ,コーパスにかかわる発表が2件 (丸山岳彦氏「日本語の自発音声に見られる節連鎖構造の分析」,及び,建石始氏「「~たばかり」と「~たところ」の意味・用法の広がり―コーパスを用いた複文研究に向けて―」) ,対照研究にかかわる発表が2件 (下地早智子氏「接続形式としての“着”」,及び,米田信子氏「バントゥ諸語の名詞修飾節―スワヒリ語とヘレロ語の例―」) であった。
並列接続構造で用いられる接続助詞タリ・シに対する関連性理論の見方に基づく分析である長辻幸氏「現代日本語のタリに関する一考察―並列節マーカーの語用論的分析―」では,これらの接続助詞にコード化される手続き的意味にどのような違いがあるかが論じられた。横森大輔氏「相互行為の資源としての複文構文の意味―カラ節とケド節の言いさし現象の考察から―」では,言語表現に符号化された性質がどのように利用されるかという観点から,「カラ言いさし発話」と「ケド言いさし発話」に関する分析が示された。
丸山岳彦氏「日本語の自発音声に見られる節連鎖構造の分析」では,国研の『日本語話し言葉コーパス』を用いて,連用節が複雑に連鎖することの多い自発的な話し言葉において,どのような種類の節がどのように連鎖するかが論じられた。建石始氏「~たばかり」と「~たところ」の意味・用法の広がり―コーパスを用いた複文研究に向けて―」は,国研の『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用いて,文末の「~たばかりだ」・「~たところだ」の用法,及び,それらの接続形である「~たばかりに/ばかりか」・「~たところが/ところで」の用法を詳しく検討した。
下地早智子氏「接続形式としての“着”」では,一般にアスペクト・マーカーとみなされている中国語の“着”に,主節に対する背景状況の描写を担うという,日本語における動詞のテ形接続形式に類似した用法が見られることが論じられた。米田信子氏「バントゥ諸語の名詞修飾節―スワヒリ語とヘレロ語の例―」は,日本語の名詞修飾節の研究で話題に上っている「内の関係」・「内容補充関係」・「相対的関係」というタイプがスワヒリ語とヘレロ語でどのように表し分けられるかについて,言語類型論的な観点から考察した。
招待発表は,加藤重広氏「複文の単文化―節性と非節化―」,遠藤喜雄氏「複文とフォーカス」,高山善行氏「条件表現とモダリティ表現の接点―文法史の視点から―」,松木正恵氏「接続関係を表示する複合辞的表現―名詞性接続成分のタイプから見た連体複文構文と連用複文構文の接点―」の4件であった。
加藤重広氏「複文の単文化―節性と非節化―」では,複文を規定する「節」の概念をめぐって,節性の問題と非節化の問題が取り上げられた。動詞タ形を取る連体表現における節と句をどのように区別し得るかという点や複文が非節化によってどのように単文化するかという点が論じられた。遠藤喜雄氏「複文とフォーカス」は,日本語学の研究成果をカートグラフィー理論により洗練したうえで世界に発信するという趣旨のもと,日本語の副詞節の複文構造に見られる意味解釈のあり方を理論的に説明する方途を提示した。
高山善行氏「条件表現とモダリティ表現の接点―文法史の視点から―」では,古代日本語の周辺的な条件節と見られる「ムニ節」・「ムハ節」が取り上げられ,仮定条件が成立するうえで助詞「ニ」「ハ」が大きな働きをしたという主張が展開された。松木正恵氏「接続関係を表示する複合辞的表現―名詞性接続成分のタイプから見た連体複文構文と連用複文構文の接点―」は,接続関係を表示し複文を構成する働きを持つ複合辞表現を概観したうえで,連体修飾構造の底名詞が主節に対して接続成分として機能する「名詞性接続成分」に着目し,連体修飾構造と連用修飾構造の接点について考察した。
以上のとおり,本ワークショップでは,複文構文に関する広範な研究テーマがさまざまな研究アプローチによって論じられた。フロアとのディスカッションも活発に行われ,発表者・参加者にとって非常に有意義な場となった。
発表資料
当日のハンドアウトをPDF形式でご覧いただけます。
- 「現代日本語のタリに関する一考察 ―並列節マーカーの語用論的分析―」
長辻 幸 (奈良女子大学大学院)
ハンドアウト [ PDF | 168KB ] - 「相互行為の資源としての複文構文の意味 ―カラ節とケド節の言いさし現象の考察から―」
横森 大輔 (京都大学)
ハンドアウト [ PDF | 357KB ] - 「日本語の自発音声に見られる節連鎖構造の分析」
丸山 岳彦 (国立国語研究所)
ハンドアウト [ PDF | 1260KB ] - 「複文の単文化―節性と非節化―」
加藤 重広 (北海道大学)
ハンドアウト [ PDF | 197KB ] - 「複文とフォーカス」
遠藤喜雄 (神田外語大学)
ハンドアウト [ PDF | 285KB ] - 「~たばかり」と「~たところ」の意味・用法の広がり ―コーパスを用いた複文研究に向けて―」
建石 始 (神戸女学院大学)
ハンドアウト [ PDF | 261KB ] - 「接続形式としての“着”」
下地 早智子 (神戸市外国語大学)
ハンドアウト [ PDF | 311KB ] - 「バントゥ諸語の名詞修飾節 ―スワヒリ語とヘレロ語の例―」
米田 信子 (大阪大学)
ハンドアウト [ PDF | 188KB ] - 「条件表現とモダリティ表現の接点 ―文法史の視点から―」
高山 善行 (福井大学)
ハンドアウト [ PDF | 236KB ] - 「接続関係を表示する複合辞的表現」
松木 正恵 (早稲田大学)
ハンドアウト [ PDF | 443KB ]
研究発表当日の様子
長辻氏 発表
横森氏 発表
丸山氏 発表
加藤氏 発表
遠藤氏 発表
建石氏 発表
下地氏 発表
米田氏 発表
高山氏 発表
松木氏 発表