「大規模方言データの多角的分析」研究発表会の概要

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プロジェクト名
大規模方言データの多角的分析 (略称 : 大規模方言データ)
リーダー名
熊谷康雄 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)
開催期日
平成23年12月10日 (土) 13:50~16:40
開催場所
国立国語研究所・セミナー室

発表概要

「『日本言語地図』データベースの構築過程とその性格」熊谷 康雄 (国立国語研究所 准教授)

データベースの利用・分析にはその性質・特徴を理解しておくことが重要である。『日本言語地図』データベースの構築方法は,資料の保管秩序に基礎を置き,地図の編集や資料の保管法と結びついている。データベース構築のプロセスと構築過程で出会う問題点とその対応から,事例を示しながらデータの性格についての整理を試みた。また,この『日本言語地図』データベースの活用,分析を目的とする参考地図の電子化や地点・被調査者の属性情報等,関連データの電子化の方法についても述べた。基礎図,参考地図は多くの GIS も含めた他システムとのファイル形式の互換性の高いシェープファイルの形式で作成し,これを基にこれまでのプラグインの利用に互換性のあるイラストレータ形式も作成した。これらについて報告するとともに,フリーの GIS ソフトである QGIS 上で道路網と複数回答地点の分布の突き合わせについての初歩的な観察を例示として示した。また,地点の属性データ等の LAJDB 本体への統合に向けて,データベースの見通しを述べた。

「方言周圏論の発展と現代的位置」小林 隆 (東北大学大学院文学研究科 教授)

柳田国男によって提案された「方言周圏論」は現在でも方言の成立を解き明かす有効な原理である。しかし,その後,この理論に対する反論や修正案が提出され,さまざまな問題点が検討されてきた。その中で,日本の方言形成についての議論が繰り返され,方言学の発展が促されてきた。今や,方言周圏論は,方言の形成について扱うより大きな研究の枠組みの中でとらえるべき段階に来ている。そのような広義の研究概念を「方言形成論」と名付けることにする。この方言形成論は,近年,研究が活性化しつつあるが,それらの研究に共通するのは,方言周圏論的な方言形成を批判的にとらえる問題意識である。この発表では,それらの研究に導かれながら,方言周圏論のもつ問題点をあらためて整理し,それが今日,方言形成論の中でどのように深化されてきているかを見ていった。すなわち,現在の方言形成論における方言周圏論の位置付けと課題について考えた。

「言語解析ソフトを利用した大量方言テキストデータの処理法」澤木 幹栄 (信州大学 教授)

日本語解析ソフト茶筅を利用して,標準語対訳付きの方言テキストデータで,感動詞や指示詞などをコンテクスト付きで取り出すことを考えた。標準語テキストに解析ソフトを使うことによって,効率よく特定の品詞や特定の活用形を取り出すことができる。今回の発表では,方言談話資料のデジタルデータから,標準語訳の部分に形態素分析ソフト「茶筅」を適用して,形態素に文法情報を付加したものを作り,そこから大量データを作るという手法について発表を行った。このとき「コマンドプロンプトの利用になれていない研究者にとってハードルが高すぎる」という意見が出,これに対して,visual basic などでプログラムを書いて,ユーザーインターフェースの改良を図ることを提案した。現在,取りかかり始めたところである。