「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会発表内容の「概要」

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成23年10月8日 (土) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「動詞活用のゆれに関するオムニバス調査の構想」松田 謙次郎 (神戸松蔭女子学院大学 教授)

サ変動詞~五段活用・上一段活用の間には「属さない~属しない」「応じる~応ずる」といったようにゆれが存在し,その言語的条件や,方言差,性差の検討またコーパスを使った大規模調査の報告もなされてきている。しかしながら,国語研 (1955, 1956) ,飯豊 (1964, 1966) ,土屋 (1971),宮本 (1978) ,国語研 (1981) といったアンケート方式による先行調査については,必ずしもすでに判明している言語的要因を十分吟味した上での調査というよりは,非常に乏しい調査語を使用して変異形の使用実態を検討したものであり,探索的な性格のものであったとは言え,諸々の欠点を抱えていたことが指摘できる。この発表では,これらの先行調査から明らかになったサ変動詞のゆれの動向やそこに関わるいくつかの要因を整理し,そのゆれに単語と活用形が複雑に絡み合っていることを示し,今後行われる調査では,複数の調査語について未然・終止・連体・仮定の各語形が調査されるべきことを主張した。

「NHKアナウンサーのアクセントの現在 序章」塩田 雄大 (NHK放送文化研究所 メディア研究部放送用語班 専任研究員)

NHK放送文化研究所では現在『NHK日本語発音アクセント辞典』の改訂作業を進めており,その一環として全アナウンサーを対象とした音声聴取調査 (3021語,471人回答) をおこなった。複合動詞に関して,「伝統的には平板型である複合動詞のなかに,中高型に移行しているものが多くみられる」「全体の拍数が長くなるほど,中高化の度合いが高い」「全体の拍数が同じ場合,前部動詞の拍数が長くなるほど,中高化の度合いが高い」「前部動詞にアクセントをおく形のもの (前部型) は,あまり多くない」といった諸傾向が過去の調査と合致することが確認された。一方で,過去の調査で表れていた「複合動詞の中高化は,若年層ほど進んでいる」という傾向は今回は確認されなかった。また,後部動詞の種類が全体のアクセントにどう関与しているのかはこれまであまり検討されてきていないが,今回の結果から「前部動詞が起伏式である複合動詞 (5拍・6拍) では,後部が起伏式のものよりも,後部が平板式のもののほうが,全体として平板型アクセントが支持される傾向が強い」ことが明らかになった。
以上から,「複合動詞 (前部動詞+後部動詞) 全体のアクセントは,かつては,前部動詞と反対の式をとる形になっていた。その後,前部動詞の式に関係なく,全体として中高型[-2]を指向するようになっている。ただしその変化には遅速があり,後部動詞が起伏式であるものは『より早く』,平板式であるものは『相対的に遅く』進んでいると思われる」ということを指摘した。