「日本語レキシコンの音韻特性」「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」合同研究発表会発表内容の「概要」

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系)

消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究 (略称 : 危機方言)
木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系)
開催期日
平成23年7月16日 (土) 13:00~17:00
平成23年7月17日 (日) 9:30~13:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表概要

平成23年7月16日 (土)

「舌端の狭めを伴う母音の音声的記述: 宮古多良間方言の事例研究」青井 隼人 (東京外国語大学)

宮古諸方言には舌端の狭めを伴う母音が存在することが知られている (この母音はその音色から「中舌母音」と慣習的に呼ばれる) 。本研究の目的は,宮古多良間方言に観察される「中舌母音」の音声的諸特徴を明らかにすることである。「中舌母音」に関する従来の記述は主観的・断片的なものにとどまっており,その音声的特徴を把握するための客観的資料はこれまでほとんど提示されていない。本研究では,複数の器械音声学的手法 (音響分析・静的パラトグラフィー) に基づいて客観的・組織的に多良間方言の「中舌母音」を記述することを試みた。

「沖縄津堅島方言の文末詞について」又吉 里美 (志學館大学)

本発表では,沖縄津堅島方言の文末詞の分析を以下のように行った。1) 文末詞の形態と動詞,形容詞,名詞など種々の前部要素の形態との関係を整理した。2) 文末詞の意味機能と文脈や使用場面との関係を整理した。特に,文末詞の情報伝達という側面だけでなく,感情伝達という側面を含めて考察した。

平成23年7月17日 (日)

「北琉球奄美湯湾方言のアクセントについて」新永 悠人 (東京大学大学院 / JSPS) ,小川 晋史 (国立国語研究所)

本発表においては湯湾方言のアクセントについて,共時的な体系を中心に報告した。湯湾方言のアクセントは,先行研究で指摘されていない定義による3型アクセント体系として捉えることができる。また,湯湾方言における外来語アクセントと複合語アクセントについても報告した。

「琉球語宮古池間方言の三型アクセント体系」五十嵐 陽介 (広島大学 准) 田窪 行則 (京都大学 / 国立国語研究所) ,林 由華 (京都大学) ,
久保 智之 (九州大学)

本稿の目的は,1) 二型であると記述されてきた琉球語宮古池間方言のアクセント体系は三型であることを,産出された音声データの定量分析の結果に基づいて示すことと,2) 池間方言と,三型体系を有する他の琉球語諸方言との間には,それぞれのアクセント型に所属する語彙に規則的な対応があることを示すことにある。
琉球語宮古池間方言は二型アクセント体系を有するというのが50年来の通説であった。しかしながら我々は,当該の語に2モーラ助詞および述語を後続させたキャリア文を用いた調査の結果,この方言は3種類のアクセント型を区別することを発見した。三型アクセント体系を持つ南琉球語諸方言としては,与那国方言,宮古多良間方言に次いで3番目の発見となる。
池間方言と,三型体系を有する他の琉球語諸方言との間には,それぞれのアクセント型 (A型,B型,C型) に所属する語彙に規則的な対応が観察される。したがって池間方言の三型体系はこの方言における独自の改新ではなく,琉球祖語に存在した対立を保持した結果であるとみなすことができると主張した。一方,池間方言にはA型に所属する語彙数が,他の型に属する語彙数と比較して,極端に少ないという事実が観察される。他方言のB型の語彙のほとんどが池間方言のB型の語彙に対応し,他の方言のC型の語彙のほとんどが池間方言のC型の語彙に対応するという一対一の関係がある一方で,他の方言のA型の語彙が池間方言ではA型の語彙とB型の語彙のいずれかに対応するという関係がある。この事実は,池間方言においてA型がB型に合流しつつあり,そのアクセント体系が三型から二型に変化する過程にあることを示すものであると解釈されると報告した。