「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会発表内容の「概要」

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成23年7月16日 (土) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「全国方言意識調査に基づく地域の類型化と分類の試み」田中 ゆかり (日本大学 教授)

本プロジェクト「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (リーダー : 相澤正夫) 」の一環として2010年に実施した全国方言意識調査における「方言」と「共通語」にかんする言語意識項目の報告を行なった。また,全国方言意識調査データのうちの7項目を用いてクラスター分析 (ward法) を行ない,地域の類型化と分類を試みた。その結果,全国を網羅する12地域は,「首都圏・北海道型」「近畿型」「沖縄型」「九州・中国・四国型」「東北・東海・北陸型」の5つに類型化された。「方言」と「共通語」にかんする言語意識や言語行動から見た地域の類型化と分類については先行研究がいくつかあるが,現代的な言語行動事象にあらわれる地域差を考える場合,こんにち的な言語意識に基づく新しい地域類型や分類が必要と考え,今回のような試行を行なった。

「専門用語と教科用語の対照 ―医療用語を例に―」田中 牧郎 (国立国語研究所 言語資源研究系 准教授)

前回発表 (2010年6月12日) で示した,専門家と非専門家の情報共有を妨げている「専門用語の言語問題」を改善する基礎作業のひとつとして,「専門家と非専門家が共有すべき専門用語」の具体的なありようを考えるために,医療専門用語が学校教科書にどのように扱われているかを調べ,以下のようなことを述べた。
国立国語研究所「病院の言葉」委員会が示している,非専門家にとっても重要な医療専門用語のリストについて,小学校から高校までの全教科を対象とした「教科書コーパス」での使用状況を見ると,一定程度の語彙が教科書で使われており,基本的な語彙からレベルの高い語彙まで順を追って扱っている実態が確認でき,こうした語彙は専門家と非専門家が共有しているものだと考えた。一方,重要語彙であっても教科書に取り上げられていなかったり,重要でない語彙が不用意に使ってあったりする場合も少なくなく,それらは語彙の共有がうまくいっていない部分だと見た。
このような,重要な専門用語と教科用語を対照した語彙データベースを整備することは,専門家と非専門家が語彙を共有していくにはどうすればよいかを検討することに役立つことを指摘した。