「テキストにおける語彙の分布と文章構造」研究発表会発表内容の「概要」
- プロジェクト名
- テキストにおける語彙の分布と文章構造 (略称 : 語彙と文章構造)
- リーダー名
- 山崎 誠 (国立国語研究所 言語資源研究系 准教授)
- 開催期日
- 平成23年6月26日 (日) 14:00~17:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 3階 セミナー室
発表概要
「語彙の分布の視覚化」山崎 誠 (国立国語研究所 准教授)
語彙の分布を文章の構造や展開を踏まえて可視的に表現する方法について検討した。ひとつのテキストの語彙を表現する方法としてもっとも標準的である語彙表 (頻度表) は、テキスト全体の語彙の量的構造を示すことができるが,テキスト内での出現位置やテキストの構造を反映させることができない。本発表では,テキストにおける語彙の分布の表現方法として,出現位置ともっとも基本的な文章構造である段落の中での位置を同時に表示する可視的な方法を提案した。この方法を発展させることにより,異なるテキスト間での語彙の分布の比較が直感的に行えるようになることが期待される。なお,語の分布を観察する際には,指示表現をどのように繰り込むか,また,同じ表現が別々の対象を指示しているような場合,別語をするのかなどの指摘があった。
「論文の構成要素の分布から学術論文のタイプを見る」清水 まさ子 (日本大学 講師)
本発表は,学術論文において判断表現とメタ言語表現がどのように出現しているのか,その出現の仕方を,学術論文のタイプ (論証型論文,検証型論文,複合型論文) と関連づけて考察したものである。まずそれぞれの判断表現 (~と考えられる,~と言える,~だろう,~のだ) について調査した結果,「~と考えられる」は検証型論文に,「~のだ」は論証型論文に多く出現することがわかり、この2つの判断表現の出現の仕方は対照的であった。一方,「~と言える」と「~だろう」の出現は特定の論文タイプに偏ることがなかった。またメタ言語表現と論文タイプの調査では,いくつかのメタ言語表現は論証型論文に偏って出現していることがわかった。今後、今回調査した判断表現とメタ言語表現の出現の違いが,どう関わり合っているのかについて見ていく予定である。
「文章と語彙の関わりについて」高崎 みどり (お茶の水女子大学大学院 教授)
文章の構造を,線条的構造 (ストーリー的構造) と,因果関係を中心とする構造 (プロット的構造) の重ね合わせとして考える。さらに線条的構造を①語句の線条的構造,②モダリティ要素の線条的構造,③談話構成語による線条的構造の重ね合わせとして捉える。いずれもが,文章を成立させる要件である結束性と関係している。今回は,『文藝春秋』巻頭随筆を材料として,①を中心として,A,同一語句反復による結束性,B,『分類語彙表』等に拠る語彙論的結束性,C,テクスト内部のみで有効な固有名詞および代名詞的語句による結束性,の様相を考察した。特に,Aについては,その始発の位置から,題名始発型,著者職業名始発型,冒頭文始発型に分けて,それ以降の線条的構造のどの部分で出現するかでパターン化を試みて,文章における語彙的結束性の実態を明示した。今後は②モダリティ要素の線条的構造,③談話構成語による線条的構造についても追究していきたい。