「近現代日本語における新語・新用法の研究」研究発表会の発表内容「概要」

プロジェクト名
近現代日本語における新語・新用法の研究 (略称 : 新語・新用法研究)
リーダー名
新野 直哉 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)
開催期日
平成23年6月18日 (土) 14:00~18:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

梅林 博人 (相模女子大学 教授) 戦前戦中の「全然+肯定」の一側面
―『古川ロッパ昭和日記』 (戦前篇,戦中篇) を資料とし,同書の資料性にもふれる―

戦前の「全然+肯定」と戦後のそれとの異同を論ずるに際しては実例の検討が極めて重要であるが,従来の研究では,〈戦前戦中の,気兼ねなく発せられた口語性の高い,いわばくだけた表現〉の用例が不足していた。そこで,報告者は,口語性の高い用例の採取に適していると考えられる『古川ロッパ昭和日記』 (戦前編・戦中編) を資料とし,そこに載る「全然」を調査した。
そして,本報告では以下を述べた。①「全然+打ち消し」 (例「全然+ない」) は70例中38例で5割強であった。この様相は先行研究で指摘されている様相に違うものでないことから,同資料の「全然」は,当時の「全然」の用法の大勢に従っていると見られる。②「全然+肯定」も見出された。戦前戦中に「全然+肯定」の存在することは既に報告されているが,「義太夫など全然受ける。」「「見世物」の奇術師は全然東北弁でやることに定めた。」などは,戦後,誤用と批判された「全然,ハッキリしちゃうしさ」「全然肉体派ね。」 (ともに『自由学校』) と判別が困難なほどに類似していることから,注目に値する用例が存在していたと言える。③次のような,戦前にはほとんどない (一例) とされていた比較表現での用例も見出された。「山本の方が全然優れてゐて,仕事も早いし頭もいゝ。」 (昭和16年) 。④以上を踏まえると,戦前と戦後とで「全然+肯定」がどれほど異なっていたのだろうかという疑念が増加した。

「近世中国語「全然」の日本語への受容について」橋本 行洋 (花園大学 教授)

漢語「全然」は,日本語における用法とその変化についてこれまで多くの研究がなされ次第にその詳細が明らかになってきた。その一方,中国語出自であるこの語の,日本語への受容に関する研究は極めて少ない。本発表では,新たに得られた江戸後期~明治前期の用例,および中国資料に見られる用例に基づいて,近世中国語「全然」が日本語に受容される経緯について再検討を行った。
具体的には,「全然」の受容に際し,いわゆる白話小説だけでなく『朱子語類』等も関与した可能性のあること,明治以前の日本語文においては,蘭学者による使用例の目立つことを指摘した。