「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」共同研究会の発表内容の「概要」

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成23年4月23日(土) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

「外来語動詞「チェックする」の基本語化 ―20世紀後半の通時的新聞コーパスを用いて―」金 愛蘭 (国立国語研究所 時空間変異研究系 プロジェクト非常勤研究員)

本発表では,20世紀後半の新聞における抽象的な外来語の基本語化の研究の一環として,外来語動詞「チェックする」を取り上げ,自ら作成した大規模な「通時的新聞コーパス」を用いて,和語・漢語を含む類義語の体系も視野に入れつつ,「チェックする」の意味・用法の変化を中心とする基本語化の過程について記述的に検討した。
まず,基本語化の量的な面では,「チェックする」が,2000年の毎日新聞 (共時態) において,全紙面にわたって (Rangeが広い) ,数多く用いられる (高頻度) こと,つまり基本語であることを確認した。また,上記コーパスを用いた調査 (通時態) では,時代を下るにつれ,「チェックする」の出現度数が顕著に増加することを確認した。
次に,意味・用法の面では,(1)チェックを行なう主体および対象の変化と,(2)評価的な意味の拡張,の二つの側面から考察した。(1)では,<国家や政府が, (不穏分子などの) 個人を>から<組織や個人が,組織もしくは個人を>の意味へと変化してきたこと,(2)では,<悪いこと (不正,異常,間違い) がないか,検査する・取り締まる>というマイナスの意味に加えて,<状況・状態を確認する・調査する>や<情報や中身を調べる>といったニュートラル・プラスの意味へと拡張してきたことを明らかにした。

「道教え場面における補助動詞「もらう」「いただく」の使用傾向
―全国多人数調査と国立国語研究所「岡崎調査」から―」
尾崎 喜光 (ノートルダム清心女子大学 教授)

補助動詞「もらう」「いただく」は話し手が恩恵を受ける状況で用いるのが本来の用法である。しかし現実には,道教え場面での「そこを右に曲がっていただくと」のように,話し手はむしろ恩恵の与え手となる状況で用いることも一般化しつつある。そうした用法をする人が現在どれくらいの割合いるのか。国語研究所が愛知県岡崎市で過去3回実施した多人数調査 (岡崎調査) と,当研究グループで最近実施した全国多人数調査 (全国調査) からその傾向と背景を探った。
岡崎調査の該当する設問について,回答内容が適切でかつ相手の動作動詞を持つ従属節を含む回答のうち,従属節に授受表現を含む回答の割合 (=授受表現の使用者率) を分析したところ,第1次調査 (1953年) 2.0%,第2次調査 (1972年) 11.0%,第3次調査 (2008年) 33.5%と一貫して増加傾向にあることが分かった。第3次調査終了後に別の回答者に実施したインタビューによると,丁寧さを出すために授受表現を用いる意識が見られた。
2011年2月に実施した全国調査の回答を分析したところ,全体としては授受表現を含まない回答の方が優勢であったが,それを含む回答も一定の割合見られた。その数値は男性よりも女性で高く,年齢層別では若年層ほど高くなる傾向が見られた。また地域別では,近畿およびその周辺でその数値が高く,逆に北海道では低い傾向が見られた。