「訓点資料の構造化記述」研究発表会内容「概要」
- プロジェクト名
- 訓点資料の構造化記述
- リーダー名
- 高田 智和 (国立国語研究所 理論・構造研究系 准教授)
- 開催期日,開催場所
- 平成22年12月26日 (日) 14:00~18:00 国立国語研究所 1階 大会議室
平成22年12月27日 (月) 10:00~12:00 国立国語研究所 1階 中会議室2
発表概要
西大寺本金光明最勝王経平安初期点における中国口語起源二字漢語の訓読 ―二字動詞を中心として―唐 煒 (北海道大学)
魏晋南北朝から唐代に至る中国では,口語的表現の二字漢語を多数造出して複雑多彩な表現を生み出した。これらの中国口語的表現を含む文章は,元来単音節語であった古典漢文の訓読法では読み解くことが難しい。また,漢訳仏典は四字一句を基調とすることが多く,それと密接に関連するのが二音節語の多用である。しかし,漢訳仏典の口語語彙の訓読の実態についての実証的研究はほとんどなされていない。本発表では,代表的平安初期訓点資料である西大寺本金光明最勝王経平安初期点 (830年頃加点) を取り上げ,中国口語起源二字漢語動詞の箇所を,本資料が如何に訓読しているかを検討した。二字一語として訓んでいるものは10語,二字一語としては訓んでいないが文意は大きく外れていないものは8語という結果を得た。
和漢朗詠集と文字コード當山 日出夫 (立命館大学)
発表者 (當山) は,かつて,『和漢朗詠集漢字索引』を,パーソナルコンピュータで作成したことがある。昭和63年 (1988) のことである。その当時は,JIS規格は,78版と83版が並行して使用されていた時代であり,それ以上の文字は外字処理するにしかなかった。今日,JIS規格も0213 (04) にかわり,Unicode文字もかなり自由に利用できる環境になってきている。しかし,古典籍をどのようにコンピュータに入力するかの基本的な問題点は,依然としてのこっている。いや,使える文字セットが多様化しただけ,より問題は,混沌した状況になってきているともいえる。このようななかで,古典籍と文字コードの問題は,再検討の必要があるといえる。本発表は,発表者が,以前のJIS漢字コードの時代に書いた論考を,再度,今日の視点から読み直してみることによって,この問題点について考えるものである。
人文学における構造化記述の意義と課題永崎 研宣 (人文情報学研究所)
人文学研究においては,様々な資料が用いられる。それらが研究対象として分析される過程では,必ずしも明示的ではないにせよ,なんらかの構造が見出だされているということは様々に指摘されている。紙メディアにおいては捨象されることが多かったその種の情報は,しかし,人文学における方法論の継承には不可欠のものである。デジタルメディアの圧倒的な記録可能量と柔軟な表現能力は,これをデジタルメディア上で明示的に記述・蓄積する道をひらいた。もちろん,蓄積量の増加が,計算機による大規模処理を可能とし,従来の手法では不可能だった新しい知見をもたらしうることも,その遠い先には見えているだろう。本発表では,そのような文脈での構造化記述の意義と課題について,事例を交えつつ報告した。
白点資料のデジタル画像化高田智和 (国立国語研究所)
本発表では,国立国語研究所蔵『金剛頂一切如來眞實攝大乘現證大教王經』 (院政期白点) のデジタル撮影の様子を報告した。要点は次の通りである。 (1) 撮影は,2010年10月7日・8日の両日に行なった。 (2) 白点資料のデジタル撮影に実績のあるコンテンツ株式会社により,国語研究所研究室に撮影機材一式を運び込んで,撮影を行なった。 (3) 撮影の目的は,解読に資するための研究用画像の制作と,Web公開用画像の制作である。 (4) 国語研本の白点は状態がきわめてよく,蛍光灯下の通常撮影でも白点を写すことができる。 (5) 通常撮影では,虫損と白点 (ヲコト点,句読点) とが区別しにくい画像となったため,偏光撮影によって,白点をとばした画像も制作した。