「コーパス日本語学の創成」共同研究会発表内容「概要」

プロジェクト名
コーパス日本語学の創成 (略称 : コーパス日本語学)
リーダー名
前川 喜久雄 (国立国語研究所 言語資源研究系 系長,教授)
開催期日
平成22年12月19日 (日) 14:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室
参加人数
18名 (共同研究参加者15名,外部3名)

発表概要

「複合助詞の語形と品詞性」杉本 武 (筑波大学 教授)

複合助詞には,「に関する」と「に関しての」,「に対して」と「に対し」,「ために」と「ため」のように,語形の「ゆれ」が見られるものがある。このような,「ゆれ」を有する複合助詞「によって」「において」「に関して」「に対して」「に際して」「ために」について,「現代日本語書き言葉均衡コーパス」等のコーパスにおいて,いずれの語形が用いられているか調査した。
その結果,「に際して」は,他の複合助詞と異なり,連体用法において圧倒的に「に際しての」の形が用いられること,「に対して」は,接続助詞用法の場合「に対して」「に対し」のいずれも用いられるのに対して,格助詞用法の場合「に対して」が好まれること,「ために」は,目的用法の場合「ために」が,理由用法の場合「ため」が好まれることなどを明らかにした。さらに,このような語形の「ゆれ」の偏りは,複合助詞の品詞性 (格助詞的か接続助詞的か) の違いによるものであることを論じた。

「動詞の格情報 ―国語辞書の記述とコーパス―」丸山 直子 (東京女子大学 教授)

動詞の格情報 (特に多重性を持つもの) について,国語辞書の記述と,コーパスの実態を照らし合わせ,よりよい国語辞書の記述法を探っている。複数の格助詞を取り得るもの (「試合に / で勝つ」) ,同じ格助詞だが前に来る名詞の種類によって語義が異なるもの (「型に / 池に / ゲームにはまる」) 等の考察を行ってきた。
今回は,特に「~を秘書に雇う」の「秘書に」のような,役割のニ格について論じた。助詞「に」を伴う <役割> を表す成分には,動詞の性質によって <役割> のニ格成分となるもの (「秘書に雇う」「候補者に選ぶ」「建築費に充てる」等) と,名詞の性質によって <役割> の意味を帯びた副詞的成分になるもの (「お礼に,歌を歌う」「一生の思い出に,笛を吹く」等) との2種類があることを,コーパスを調査することで検証した。役割のニ格成分の必須度の違い,ヲ格成分とニ格成分の語順やトシテとの関わり等についても考察した。