「多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明」研究発表会発表内容「概要」

プロジェクト名
多角的アプローチによる現代日本語の動態の解明 (略称 : 現代日本語の動態)
リーダー名
相澤 正夫 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
開催期日
平成22年10月2日 (土) 14:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室

発表概要

「通時的な言語使用データの解釈をめぐって」石井 正彦 (大阪大学 教授)

一般に計画的なコーパス・デザインを図ることが難しい通時コーパスから言語使用の変動を示すデータを得た場合,それを (単なる偶然の結果ではなく) 有意味な言語変化と解釈するためには,どのような条件・要因について検討することが必要か。本発表では,20世紀後半の「毎日新聞」から作成した二つのコーパス―「余録コーパス」と「全紙面コーパス」―を用い,いくつかの言語項目の変動データを比較することによって,ジャンル (話題やスタイル) や書き手の世代差をはじめとするさまざまな側面 (要因) が,それらの変動にどのように関与しているかを具体的に検討した。とりあげた言語項目は,外来語の比率,一字漢語のサ変動詞「~ずる / じる」,「~的の / ~的な」,形容詞の推量形「~かろう / ~いだろう」,「~であろう / ~だろう」,「~でない / ~ではない」,「~ねばならぬ / ~なければならない」,逆接の接続詞である。これら8項目について,20世紀後半におけるコラムと全紙面との変動を比較し,書き手の年齢や好み, (ダ調・デアル調などの) 文体差などの影響が認められること,他の項目についても同様の調査を行う必要性があることなどを確認した。

「新聞データ (朝日『聞蔵』) に見る「なく中止形」の動向」金澤 裕之 (横浜国立大学 教授)

「なく中止形」 (動詞の否定の連用中止法において,助動詞「ない」を使った「~ (し) なく,…」の形で,金澤の造語) については,これまでその現象の発見や特色,他分野への応用などを主に扱ってきた。そこで一度,近年の実際の状況を確認するため,新聞のデータを利用して,1980年代以降の用例を主に記述的な面から調査・分析してみた。調査の対象とした資料は朝日新聞記事データベースの『聞蔵(きくぞう)』で,これによって検索可能な1984~2009年の26年間における動向を調べた。
その結果,この方法によってこの時期に確認できた「なく中止形」の用例は合計472例で,形式面での分類による特色として,①動詞 / 補助動詞「いる」の場合が先行,②可能表現に関わる形式 (動詞「できる」,助動詞「 (ら) れる」,可能動詞,可能の補助動詞,など) の場合に広く分布,③圧倒的に「自動詞」の場合が多い,の3点が挙げられ,それを総合的に捉えると,状態的な意味を表わす表現 (動詞) の場合によく出現していることが分かった。
また,経年的な変化の特色としては,①1980年代後半から徐々に増加し,90年代後半以降はほぼ安定的に出現,②2000年前後に特に用例数が際立つが,その点についての理由は不明,③形式の面からは,比較的満遍なく種々の形式が見られる,の3点が挙げられることが分かった。