「訓点資料の構造化記述」研究発表会 概要
- プロジェクト名
- 訓点資料の構造化記述
- リーダー名
- 高田 智和 (国立国語研究所 理論・構造研究系 准教授)
- 開催期日
- 平成22年7月9日 (金) 10:00~15:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 1階 中会議室
発表概要
小学の受容と訓読に関する日韓比較研究呉 美寧 (韓国 崇実大学校)
小学の受容様相は,日本と韓国との間で大きく異なる。これは,朝鮮王朝において政治・社会体制に直結し,一方,江戸時代日本において外来思想であった,朱子学の両国における位相の違いを背景とする。小学の注釈書の解釈や訓読においても,両国の経書学問の違いが表れている。朝鮮王朝の『小学諺解』 (1587年) と『御製小学諺解』 (1744年) とでは,内容面で大差はなく固定的である。対照的に,江戸時代日本の『小学句読』と『中村惕齊講述小学』とでは,訓読は一様ではない。また,朝鮮王朝の小学諺解では,論語諺解とは異なり,漢語を固有語で読むのが一般的である。小学は,初学者を対象とするテキストであるため,固有語の使用が教育的効果を高めることに結び付いているものと見られる。
漢文訓読史研究を学ぶ学生の視点小助川 貞次 (富山大学)
漢文訓読が東アジア漢字文化圏で共通に行われていたことは,研究者の間では1960年代後半から知られており,東アジア学術文化交流史の観点からも非常に興味深いことである。しかし一方で,漢文訓読史に関して大学教育で使える概説書や資料集はほとんど存在せず,若手研究者も少ない。このままでは漢文訓読史研究は絶滅危惧研究種として博物館標本になることは間違いなく,この分野に関する学術知を次世代に継承することが極めて困難になる。この背景には,学習指導要領に規制された教育制度,昨今の大学改革による専門性の喪失,学会組織の在り方など様々な問題点が指摘できるが,一方で大学教育における学生の視点に目を転じてみると (教える視点から学ぶ視点へ),このような危機的状況を救うヒントが見えてくる。富山大学において発表者が展開した2004年から2010年までの授業の中からこのヒントを探る。