「文字環境のモデル化と社会言語科学への応用」研究発表会 「概要」

プロジェクト名
文字環境のモデル化と社会言語科学への応用 (略称 : 文字と社会言語学)
リーダー名
横山詔一 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
開催期日
平成22年3月29日 (月) 13:30~18:30
開催場所
学術総合センター 101会議室 (東京都 千代田区 一ツ橋 2-1-2)

発表概要

「鶴岡共通語化研究資料のデータベース化について」阿部 貴人 (国立国語研究所 研究情報資料センター プロジェクト特別研究員)

第一次~第三次調査の音声・音韻31項目 (ランダムサンプル) をデータベース化した「トライアル版」について報告した。①被調査者の確定,②中間的な音の処理について報告し,③調査員が聴き取ったデータと1人の研究者が聴き取ったデータの差についての分析結果を示した。
③では,単音レベルの聴き取りとアクセントの聴き取りで結果の様相が異なることを指摘した。今後はさらに年齢区分を変更して確認する,単音レベルをいくつかの調査ポイント (唇音性,口蓋化,など) に分けて確認する必要がある。このことを分析・確認することは,今後の調査の実施・データ整理の仕方にも重要な示唆を与えるものであると考えられる。

「山形県鶴岡市での共通語化調査について」佐藤 和之 (弘前大学 教授)

過去3回実施された鶴岡調査の報告書 (『地域社会の言語生活』1974,『鶴岡方言の記述的研究』1994) から,それぞれの回ごとの調査目的と意義を抜き出し,再整理した。
再整理によって得られた24種の目的と7種の意義から,(1) 目的に対する結論を一覧できるマトリックス表を作り,全体で討論することが必要であること,(2) 調査目的に対応させた新たな分析を3回目調査に対して実施することが喫緊の課題であることを述べ,現代の統計学的な方法によるデータの入力と分析作業 (100年間の推移を予測する: 2050年に検証される) を行っておくべきことを提言した。併せて,過去の調査で得られた結果について,仮説検証あるいは課題解決型の調査項目として立項する意義についても提言した。

「方言における意味認識の世代差と個人差 ―山形県庄内方言を例として―」佐藤 亮一 (国立国語研究所 名誉所員)

山形県三川町での調査結果から,方言語彙の意味変化について分析・考察した。
調査は,若年層 (20・30歳代),中年層 (40・50歳代),高年層 (60歳代) を対象に,1つの方言語彙 (使用語彙・理解語彙) についていくつかの具体的なコンテキストを与え,使用できるか否かを尋ねたものである。世代別に調査結果を分析することで,従来の方言語彙が持っていたコンテキストの条件が,漸次的に失われていく過程を見出した。
以上の分析・考察から,『庄内方言辞典』等に掲載された方言語彙を若年層・老年層に予備調査し,両者が使う方言語彙を抜き出すといった,今後の展開についても提言した。