「大規模方言データの多角的分析」研究発表会 「概要」

プロジェクト名
大規模方言データの多角的分析 (略称 : 大規模方言データ)
リーダー名
熊谷 康雄 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)
開催期日
平成22年3月15日 (月) 14:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表概要

「共同研究大規模方言データによる多角的分析の目的と概要」熊谷 康雄 (国立国語研究所 時空間変異研究系 准教授)

国立国語研究所では全国の方言分布が見渡せる『日本言語地図』や全国規模の方言談話の録音資料「各地方言収集緊急調査」などの資料の電子化を進めてきた。『方言文法全国地図』では作成段階から電子化されている。しかし,このような大規模な方言データを本格的に駆使した研究は今後に期待するところが大きい。本研究では,これら基盤となるデータを中心としつつ,計量的方言研究,言語地理学,日本語史,談話研究などの共同研究者が実践的なデータの分析を通して多角的に研究を行い,データの持つ可能性を発掘,新たな知見の獲得や方法の開発を目指す。この研究の目的,概要について説明し,事例として『日本言語地図』データベース構築の概要と研究利用への展開について示した。また,全国規模の方言分布データによる研究として,言語地図のデータに基づき地点間の方言の類似度をネットワークとして表示,分析する方言区画のためのネットワーク法に触れた。

「消えゆく日本語方言の記録調査 ―『日本言語地図』との関連で―」小林 隆 (東北大学大学院 文学研究科 教授),澤村 美幸 (東北大学 大学院生 / 日本学術振興会特別研究員)

プロジェクト「大規模方言データの多角的分析」は,特に『日本言語地図』を構成する大量のデータを整備し,さまざまな角度から研究に役立てようとするものである。この「大規模方言データ」という点では,私たちの研究室 (東北大学方言研究センター) が主体となって取り組んでいる調査も該当するのでここでその概要を紹介した。この調査は,語彙項目を中心とする全国的な分布調査であるという点で,『日本言語地図』との関係が深い。例えば,『日本言語地図』の「目」という項目に対して,新たに「目玉」や「ひとみ」の項目を調査することで,「マナコ」という語の意味の分布や歴史についてより詳しく考察することが可能になった。

「分布の類型と孤例」沢木 幹栄 (信州大学 文学部 教授)

大規模データを使った研究の例として「孤例の研究」を取り上げる。
孤例の研究は徳川宗賢に始まる。沢木はそれを引き継いで,コンピューターを使い,『日本言語地図』の27項目という大規模データを対象に孤例の出現の仕方についての研究を行った。地点ごとの孤例の生産性という観点では,27項目のうち,一回しか孤例がない地点は全体の大多数を占め,孤例の出現数が多くなるにつれ,その出現数を持つ地点の数が急激に減るという傾向が見られる。また,孤例の多い地点を地図上にプロットすると,琉球地域にそのような地点が多く見られるなど地理的な偏在が認められる。孤例の研究は大規模データをそのまま活かすという点で有望なものであり,また,まだまだ発展する余地のあるものだと考えられる。非常にコンピューターに乗りやすい研究手法であるということも強調しておきたい。語形の共出現による地点間の距離を測ることによって地点同士の構造を探ることも提案したい。