「日本語レキシコンの音韻特性」研究発表会発表内容「概要」

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
リーダー名
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 客員教授)
開催期日
平成22年3月8日 (月) 13:00~18:00
開催場所
青山学院大学 青山キャンパス 総研ビル

発表概要

「借用語における促音挿入の音声学的基盤」竹安 大 (神戸大学 学術研究員)

借用語の促音挿入には様々なタイプの非対称性が存在することが指摘されてきたが,非対称性の生起理由はいまだ明らかにされていない。本発表では,特にs, sh音の間に生じる促音挿入の非対称性について,音声学的観点からその生起理由を考察した。
まず,英語話者の s と sh の子音持続時間を調べる産出実験を行った結果,英語のs, sh の平均持続時間には有意な差が認められないことを報告した。次に,日本語話者を対象として,自然音声と合成摩擦音を組み合わせた音声を刺激とする知覚実験を実施したところ,摩擦の音色が s らしい場合に比べ,摩擦の音色が sh らしくなると促音判断率が上昇することを明らかにし,これが借用語における音韻事実と同じ方向性を示すものであることを指摘した。以上の実験結果に基づき,借用語における s, sh の促音挿入の非対称性が日本語話者の知覚を基盤として生じたものである可能性を論じた。

「15世紀の楽譜「致和平譜」に反映された韓国語のアクセント」福井 玲 (東京大学)

世宗実録には,世宗が創案したといわれる井間譜という形式によって致和平などの楽譜が記録されている。致和平には歌詞として龍飛御天歌が用いられているが,本研究はこの曲の旋律と対応する歌詞の中世韓国語のアクセントとの間に非常に密接な関係があり,旋律はその語がもつアクセントの音声的実現としての声調をかなりよく反映していることを明らかにした。すべての語のアクセントが旋律に反映しているわけではないが,1つの歌の中には,声調を反映させることのできる一定の位置が決まっており,それぞれの位置において,文節の先頭の1音節ないし2音節分の旋律が,その単語の声調に従った音の高さで記録されており,各声調型に該当する旋律は,相対的な音の高さを反映している。また,漢字音は伝来字音ではなく東国正韻の声調によって発音されていたことも明らかとなった。この研究により,平声は低い音,上声は低い音から高い音に上昇する音,去声は高い音であることを音楽の面から確認することができ,さらに,音声学的実態と音韻論的性質を従来よりも深く探ることが可能になった。