「日本語レキシコンの音韻特性」研究発表会 「概要」

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
リーダー名
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 客員教授)
開催期日
平成22年2月22日 (月) 11:00~15:30
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)

発表概要

「日本語における疑似複合構造と平板型アクセント」儀利古 幹雄 (神戸大学 学術研究員)

本発表では,語末に /Cin/,/Cia/,/Cingu/ という音連鎖を有する外来語 (以下 /CiX/ 外来語: インスリン0, ベ|ンジン, マ|ーガリン; クロアチア0,ロ|シア,パラノ|イア; リスニング0,ハ|ミング,モ|ーニング) における平板型アクセントの生起要因を明らかにすべく,東京方言話者に対するアクセント調査,無意味語の意味を限定した発話実験,語の分節実験を行い,その結果を報告した。第一に,/CiX/ 外来語は特定のモーラ長で平板型生起頻度が高くなることを指摘した (/Cin/: 5μ; /Cia/: 4μ,5μ; /Cingu/: 5μ,6μ)。第二に,意味限定発話実験の結果として,/CiX/ 外来語が特定の意味カテゴリに属する場合にのみ平板型を取ることを指摘した (/Cin/: 医学・化学用語; /Cia/: 地名; /Cingu/: …すること)。さらに語分節実験及び対数線形分析から,モーラ長に関係なく,/Cix/ の直前位置で分節がなされた場合にのみ平板型生起頻度が高くなることを示した。以上の結果に基づき,本発表では,日本語における疑似複合構造の存在,及びそれが重要となるタイプの平板型生起要因の存在を主張した。

2種類の重起伏音調のふるまいの違い ―鳥取県の n+1型アクセント体系を例にして―松森 晶子 (日本女子大学 / 国立国語研究所)

鳥取県湯梨浜町の別所,長和田,泊,およびその周辺の青谷,気高地域のアクセント体系は,東京と同じように n+1型体系を持ち,アクセント規則にも東京との共通点が多い。しかし,いわゆる「重起伏」と呼ばれる,ひとつの文節内部に二つの高い音調の山が出現するような現象が見られる,という点が,東京とは大きく異なる。この重起伏は,語が無核であるか有核であるかに関係なく生じているのだが,無核語の場合に限って,ユーショク (夕食),ザイモク (材木) 等,語が CVV の重音節構造から始まる時に平板化する (HLH > MMM),「柄が…,緒が…」のように,1音節語の助詞付き接続形が HLH > MM となる,というような現象が観察されることを報告した。さらに発表では,甑島など,重起伏が頻繁に観察される他の諸方言との比較を通し,重起伏の音調交替や音調変化のあり方をさぐる類型的研究が,もっと行われる必要があることを論じた。