「テキストにおける語彙の分布と文章構造」研究発表会発表内容「概要」

プロジェクト名
テキストにおける語彙の分布と文章構造 (略称 : 語彙と文章構造)
リーダー名
山崎 誠 (国立国語研究所 言語資源研究系 准教授)
開催期日
平成22年2月15日 (月) 14:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 1階 中会議室2

発表概要

「テキストにおける多義語の意味分布と語彙的結束性」山崎 誠 (国立国語研究所 言語資源研究系 准教授)

多義語が文章中で複数回使用される場合,選択された特定の一つの意味が繰り返し使われる可能性が高いことを「現代日本語書き言葉均衡コーパス」をデータとして検証しようと試みた。具体的には「起きる」「甘い」を例にして,同一テキストに2回以上出現するサンプルにおける意味の分布を調査した。その結果,両者とも全体の8割が多義を構成するうちの一つの意味でだけ使われていることが分かった。また,ケーススタディーとして選んだテキスト (助詞助動詞・記号を除く延べ語数553語) に現れる頻度4以上の多義語15語を調べたところ,機能語的な用法で使われる例以外はほとんどひとつの意味が繰り返されていることが確認された。このことは,テキストにおける語彙的結束性が多義語の意味の実現に大きく影響していることを伺わせる。

「科学的な書物における「ている」の使われ方
―「運動長期」「パーフェクト」の果たす「話題提供」「結論」の機能について―」
江田 すみれ (日本女子大学 教授)

工藤 (1995) ではパーフェクトの「ている」は論述文において判断・意見の理由・根拠を示す機能を持つと述べられている。本発表は「パーフェクト」だけでなく「運動長期」を表す「ている」にも,「話題提供」「結論」を示す機能があることを述べる。
「パーフェクト」は,統括主題 (井上2001) のある文脈で使われること,証拠を示すという「記録」の用法 (工藤1982,庵2001) をもつことによりこのような機能が現れるのであろう。一方「運動長期」の「ている」は,一定の議論や現象を示すことによって,それをもとに具体的な議論を進める状況設定の働きをもつと言える。また,論述文では思考・言語を表す「運動長期」の「ている」が結論として用いられやすいことは理解しやすいが,それだけでなく,一般的な動詞を使った長期的な継続状態も,結論としてよく用いられていた。