「訓点資料の構造化記述」研究発表会 「概要」

プロジェクト名
訓点資料の構造化記述
リーダー名
高田 智和 (国立国語研究所 理論・構造研究系 准教授)
開催期日
平成21年12月25日 (金) 14:00~17:30
開催場所
国立国語研究所 1階 中会議室

発表概要

「漢文訓点資料構造化の試み」 高田智和 (国立国語研究所 理論・構造研究系 准教授)

訓点資料は,書写者による漢文本文 (本行) と注釈 (双行注),加点者によるヲコト点,仮名注,声点などの訓点,そのほかに,本文校訂,異本注記,辞書や注釈書からの書き込み注などを含み,複雑な文書形式である。また,訓点は,加点の層 (加点年代,加点順序) を反映する朱・墨・白など訓点の色,点の形状 (星点,圏点,線点など),和訓や字音 (声点,反切,類音注,仮名音注) などの加点内容によって分類できる。本発表では,ヲコト点主体の訓点資料である京都国立博物館蔵『世説新書』巻第六残巻 (7世紀末唐写本,10世紀初加点) の朱点 (2種) と角筆点を例として,訓点資料研究の立場から,構造言語である XML を用いた訓点の構造化記述の方法を検討した。

「訓点資料としての『文選』における「文選読」の表記形式について」 渡辺さゆり (札幌大学 准教授)

漢文訓読によって生じた「文選読」は,『文選』をはじめ諸種の資料に例を確認することができる。『文選』の訓読は伝統的なものであり,書写加点の時代が下っても平安時代の訓読内容が伝存しているとされるが,「文選読」も忠実に伝存されているのだろうか。また伝存された場合,訓点資料内の表記形式に違いは生じるのだろうか。本発表では,宮内庁書陵部蔵文選巻第二院政期点(書陵部本),東山御文庫蔵 (九条家旧蔵) 旧鈔本文選 (九条本),明州刊本六臣注文選 (足利学校遺蹟図書館蔵) (足利本) の「三都賦序」「蜀都賦」について各訓点資料における「文選読」の実態及び表記形式を調査し検討を行った。その結果,書陵部本 (院政期加点) に存する「文選読」は足利本 (1500年代加点) においても伝統的な訓がほぼ衰退することなく伝わっていた。また表記形式は資料ごとに和訓・字音の書込個所や助詞の表記方法に特長が見られた。「文選読」の表記の問題は,加点年代だけでなく訓の系統の問題を併せて考える必要があると思われる。

「韓国の伝統的漢文読法 <口訣> について」 呉 美寧 (崇実大学校 副教授)

口訣とは,韓国の伝統的漢文読法であり,音読口訣と釈読口訣とに大別できる。音読口訣は,句や文の切目に当該部分の意味内容に適した韓国語の文法要素を懸吐しておき,漢文の漢字は音で読みながら,記入された吐を加えて読んでいく方式であり,1973年に釈読口訣資料である『舊譯仁王經』が発見されるまで,韓国では音読口訣資料のみが知られていた。釈読口訣は,漢文に記入された吐や符号に従って韓国語で読んでいくと,韓国語文が成り立つもので,まさに日本の漢文訓読と同様であると言える。2001年以後,日本のヲコト点に相当する点吐を角筆で記入した資料が発見され,現在活発に研究が行われている。本発表では,まず口訣資料の発見過程と各資料について述べた。その後,韓国の口訣資料研究の方法と現在までの角筆点吐釈読口訣研究の現状について紹介した。最後に日本の訓点資料と区別されるいくつかの特徴について簡単に述べた。