「通時コーパス」シンポジウム2022 (オンライン)
- 主催
- 国立国語研究所共同研究プロジェクト 「通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開」
リーダー : 小木曽 智信 (国立国語研究所 言語変化研究領域 教授) - 共催
- 科研費 基盤研究 (A) 19H00531 「昭和・平成書き言葉コーパスによる近現代日本語の実証的研究」
研究代表者 : 小木曽 智信 (国立国語研究所 言語変化研究領域 教授) - 開催期日
- 2022年3月13日 (日) 13:00~17:40
- 開催場所
- Web開催 (Zoom)
- 事前申し込み
-
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プログラム
13:00~14:30 口頭発表Ⅰ (Zoom)
- 「通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開」
小木曽 智信 (国立国語研究所)
6年間の本プロジェクトの活動を振り返り,「通時コーパスの構築」の達成状況,「日本語史研究の新展開」の現状と今後の展望について,『日本語歴史コーパス』の利活用状況とともに述べる。また,第4期に行うプロジェクト「開かれた共同構築環境による通時コーパスの拡張」とその関連プロジェクトについて,本プロジェクトとのつながりを中心に説明する。
- 「他の助動詞と複合した終止ナリ・連体ナリの構文現象」
鴻野 知暁 (大阪大学)
古代日本語において,終止形に接続するナリ (終止ナリ) と連体形に接続するナリ (連体ナリ) とが構文的に異なるふるまいをすることが先行研究で指摘されてきた。例えば,終止ナリは係助詞の結びとなるが,連体ナリはならない。また,連体ナリは準体句を承け「主格ノ・ガ~ナリ (終止形)。」という形を許すが,終止ナリはこの構文とならない。本稿では,従来の研究であまり扱われてこなかった,ナラム,ナルラムのような複合形式について,係り結びなどに関する構文上の特徴がナリ単独の場合と異なることを見る。また,「疑問詞+ノ・ガ~ナラム」,「~ヤ・カ~ナラム」などの構文で文末の活用形がどうなっているかを論じる。
- 「当用漢字への切り替え過程の数量的分析」
松田 謙次郎 (神戸松蔭女子学院大学)
戦後の当用漢字への切り替えについて,第1~31回 (1947~59年) の国会会議録から「國」/「国」を含む語を抽出し数量的分析を行った。その結果,(1) 字体表告示前の新字体使用が多く見られる,(2) 本格的切り替えは字体表告示の5ヶ月後頃に急激に進行した,(3) 普通/固有名詞差が主要要因の一つである,などの事実が判明した。
14:40~16:00 ポスター発表 (Zoom ブレイクアウトルーム)
- 「分類語彙表番号を付与した『日本語歴史コーパス』データ」
浅原 正幸 (国立国語研究所),池上 尚 (埼玉大学),鈴木 泰 (東京大学名誉教授),市村 太郎 (常葉大学),近藤 明日子 (国立国語研究所),加藤 祥 (目白大学),山崎 誠 (国立国語研究所) - 「同音衝突再考」
大西 拓一郎 (国立国語研究所) - 「明治期から平成期における接頭辞「非-」の変遷 ―『日本語歴史コーパス』『昭和・平成書き言葉コーパス』を資料として―」
小椋 秀樹 (立命館大学) - 「近世読本コーパスの構築と課題」
片山 久留美 (国立国語研究所) - 「パラレルコーパスとしての明治元訳新約聖書の分析」
近藤 泰弘 (青山学院大学) - 「奈良時代・平安時代初期の散文の語彙分析 ―『日本語歴史コーパス』を用いた宣命・祝詞・訓点資料の比較―」
近藤 明日子 (国立国語研究所) - 「読本に見られる「あて字」の伝播について」
銭谷 真人 (鎌倉女子大学) - 「近現代における形容詞ムズカシイの意味と表記」
髙橋 雄太 (国立国語研究所 / 明治大学) - 「データビジュアライゼーションで見る古今和歌集:特徴語と共起語におけるジェンダー差」
竹内 綾乃 (国立国語研究所) - 「『日本語歴史コーパス 明治・大正編Ⅴ新聞』の構築と公開」
仲村 怜 (国立国語研究所),髙橋 雄太 (国立国語研究所),間淵 洋子 (和洋女子大学) - 「大正14年『読売新聞』の方言関連記事 ―「新聞記事データベース」の活用例として―」
新野 直哉 (国立国語研究所) - 「国定教科書の語法と文法教育史 ―明治・大正期の教科書文典を手がかりに―」
服部 紀子 (都留文科大学) - 「『日本語歴史コーパス』に収録されている日記・紀行文の文体研究」
松崎 安子 (国立国語研究所)
16:10~17:40 口頭発表Ⅱ (Zoom)
- 「訓点資料訓読文コーパス作成の意義・手法・そして課題」
柳原 恵津子 (国立国語研究所),近藤 明日子 (国立国語研究所),高田 智和 (国立国語研究所),月本 雅幸 (東京大学名誉教授)
2022年3月,『日本語歴史コーパス平安時代編Ⅱ訓点資料』として西大寺本『金光明最勝王経』平安初期点巻一を公開する。コーパステキストとした訓読文は,春日政治のものにそのままよらず,影印や現段階での訓点語学の成果を踏まえて新しく作成した。
形態論情報の付与を行うためには全文に亘り読みを定める必要があり,春日自身が後に修正したものも活用しながら,春日が読みを定めなかったものについては,最新の訓点研究の知見から新たに読みを付し,また春日の読みに修正を加えた箇所も少なくない。訓点資料のような解読の容易でない資料のコーパスの構築に際しては,当該資料の専門家とコーパス構築者の双方が,最新の研究水準に基づきながら,コーパス公開のための実際的な作業との均衡を取る必要があり,本コーパスはその試みの1つとして示したものである。 - 「中古・中世日本語アスペクト形式の変遷」
野村 剛史 (東京大学名誉教授)
発表者は2017年8月に,本通時コーパスプロジェクト及び EAJS (於リスボン市) において,日本語の中古・中世アスペクト体系の変遷について,おおよその見通しを陳べた。「無標動詞,ツ・ヌ,タリ」型から「無標動詞,タ (タリ),テアル・テイル系」型への移行となる。2017年当時の調査済み資料は,『源氏物語』 (54巻中10巻),『今昔物語集』 (本朝世俗),『宇治拾遺物語』 (上巻),『覚一本平家物語』 (12巻中3巻),『太平記』 (40巻中5巻) だった。今回は,大型資料として『源氏物語』『今昔物語集』『宇治拾遺物語』『鎌倉遺文』 (和文) 「延慶本平家」『覚一本平家』『太平記』 (いずれも悉皆調査) その他をもとに,報告を行う。
- 「egophoricity (自己性) から見たツとヌの使分けについて」
鈴木 泰 (東京大学名誉教授)
出来事の社会的 and/or 認識的意味についての主体または話し手の関与 (involvement) を表す認識的標識である自己性の規範的体系はモンゴル語などでは以下のようであるが,
(1)主語が一人称平叙文の場合,述語は自己性の標識を伴う。
(2)主語が二人称疑問文の場合,述語は自己性の標識を伴う。
(3)上述の場合以外では,述語は非自己性の標識を伴う。
古代日本語は移動動詞に関して以下のように規範的体系が端的に観察されるので,
(1)「 (私は) ただ今なむまかり帰りはんべりつる」
(2)「 (あなたは) など,かく遅くはおはしつる」
(3)「 (あるじは) 今朝,内裏へ参らせ給ひぬ」
ツは「自己性をもつ」 (subjektive),ヌは「非自己性をもつ」 (objektive) と理解される。