「対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法」オンライン研究発表会 (2021年度前期)

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
音声研究班 「語のプロソディーと文のプロソディー」
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
第1回 2021年4月23日 (金) 15:00~16:00
第2回 2021年4月30日 (金) 15:00~16:00
第3回 2021年5月7日 (金) 15:00~16:00
第4回 2021年5月14日 (金) 15:00~16:00
第5回 2021年5月21日 (金) 15:00~16:00
第6回 2021年5月28日 (金) 15:00~16:00
第7回 2021年6月4日 (金) 15:00~16:00
第8回 2021年6月11日 (金) 16:30~17:30
第9回 2021年6月18日 (金) 16:30~17:30
第10回 2021年6月25日 (金) 15:00~16:00
第11回 2021年7月2日 (金) 15:00~16:00
開催場所
Web開催 (Zoom を使用)

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参加費
無料
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関連サイト
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プログラム

4月23日 (金) 15:00~16:00 「動詞に助詞・助動詞がついたときのアクセント再考 ―背景にある原理を考える」 小川 晋史 (熊本県立大学)

日本語 (共通語・東京方言) において語 (語根) になんらかの要素が接続・複合する場合のアクセント規則もしくはアクセントの出現パターンには背景原理があるのでないかということを論じる。その背景原理は接辞 (affix) ・接語 (clitics) ・語 (word) の区別とそれらの組み合わせ (i.e. 語+語, 語+接語, 語+接辞) をもとに,「形態音韻的な自立性がより高い要素のアクセントを生かす」というものである。

まずは,動詞に助詞・助動詞が付く場合のアクセントを出発点とし,これを接辞・接語の観点から見直す。最終的には複合動詞のアクセントや,名詞+名詞のいわゆる複合語アクセント規則 (およびその例外とされるもの) などもこの原理の範囲に含まれることを論じる。

4月30日 (金) 15:00~16:00 「日本語の会話における超分節的特徴 : アイデンティティー構築のための資源の検討」 守本 真帆 (国立国語研究所)

日本語の会話において,話者が様々な言語形式を駆使しながらその場の状況やコンテクストに応じたジェンダーアイデンティティーを構築していることが終助詞 (e.g. わ,ぞ,ね,など) や一人称代名詞 (e.g. 俺,僕,私),母音の縮約形 (e.g. ない→ねえ) などの社会言語学的分析により示されている (e.g. Okamoto & Shibamoto-Smith 2004)。一方,これらの言語形式の使用 (あるいは不使用) とあわせてアイデンティティー構築のための資源 (semiotic resources) として活用されうる音声学的特徴にはどのようなものがあるかをまとめた研究はまだ少ない。本発表では,そのような特徴を先行研究に基づき概観し,自然な会話においてジェンダーアイデンティティーと関わるようなかたちでピッチが操作されていることを示唆する調査の結果を報告する。

5月7日 (金) 15:00~16:00 「三重県木本方言のアクセントにおける式について」 平田 秀 (武蔵野大学)

三重県南部熊野市木本 (きのもと) 方言は,アクセント体系において「平進式」と「上昇式」の2つの「式 (文節全体が担い手となる声調的要素)」の対立をもつ。2010年以降の発表者による現地調査の結果,三重県南部尾鷲 (おわせ) 市尾鷲方言,同市九鬼 (くき) 方言,同市須賀利 (すがり) 方言の3方言において,近畿地方全域で広く話される中央式諸方言における平進式が前述3方言の上昇式に対応し,中央式諸方言の上昇式が前述3方言の平進式に対応するという現象が確認された。一方,木本方言の平進式は中央式諸方言の平進式に,上昇式は中央式諸方言の上昇式に対応し,前述3方言にみられたような,あたかも式の音調が逆転したかのような対応はみられなかった。これらの式の特徴は1950年代の先行研究で指摘されているものであり,先行研究と同様のアクセント体系が現存することを本発表で報告する。

5月14日 (金) 15:00~16:00 「上海語窄用式変調の研究小史と新たな問題点」 髙橋 康徳 (神戸大学)

中国語の呉方言に属する上海語では,複数の音節からなる語や句には原則的に変調 (tone sandhi) が適用される。変調には広用式変調 (Left-dominant tone extension) と窄用式変調 (Right-dominant default insertion) の2種類があり,前者は複数音節からなるフットの単位に適用され,後者は句の内部で単独音節のフットに適用される。従来の声調音韻論の研究では専ら広用式変調が考察対象として注目されており,中国語の声調研究における自律分節素理論の受容に大きな役割を果たした。一方,窄用式変調は音韻論的な現象なのか音声学的な現象なのかが一時話題とはなったが,2000年代まではほとんど注目されてこなかった。しかし,2010年代に入ると音響音声学的なデータに基づく分析が各国の研究者によって行われ,「発話速度や焦点位置に影響を受ける曲線声調の音声的な弱化」という解釈が定着した。本発表ではこれまでの窄用式変調に関する研究を丁寧に整理した上で,「曲線声調の音声的な弱化とはどのような現象なのか」という新たな問題について初期的な考察の結果を示す。

5月21日 (金) 15:00~16:00 「三重県志摩方言に見る前鼻子音の変化と問題点」 高山 知明 (金沢大学)

17世紀初まで京都方言の濁音に前鼻子音の実現が広く存在したことが文献資料から知られている。以降,前鼻要素は近畿中央部で衰退するが,西側の周縁・外縁部に関してはそれを有する方言が相次いで報告されている。他方,東縁部の報告は僅少である。本発表では,発表者による1980代前半の録音資料をもとに,近畿東縁部の志摩地方・前島(さきしま)半島・和具(わぐ)において,前鼻要素がガ行に確認できることを報告する。発表者はこれについて既に論文・著書に公表しているが,今回,実際の音声を初めて紹介する。同方言にはセ・ゼの音声 ([ʃe][ʒe]),ア行の[je],語頭ラ行の破裂音化・破擦音化が確認されるほか,主格助詞に「ガ」ではなく「ナ」が現れること,ガ行四段動詞連用形の音便が撥音便で現れることが注目される。他の細かな事実も含め,近畿および志摩地方における前鼻子音の変化過程とその問題点について論じる。

5月28日 (金) 15:00~16:00 「沖縄語首里方言の音節構造の変化と祖語の母音の音価推定」 松森 晶子 (日本女子大学)

祖語の祖形再建を行う際には,根拠とするデータを採ったそれぞれの体系において,(a) どのような特徴を共有する音群が,(b) どのような音条件のもとに変化を遂げ,さらに (c) (祖形再建に複数の変化がかかわる場合には) どのような順番でその複数の変化が各祖形に生じて現代の音形が出現したのか (変化の相対年代) について,具体的な検討を行うことが求められている。琉球祖語についてはすでに Pellard (2013) などに「海 *omi,麦 *mogi,糠 *noka」などの祖形案が提案されているが,本発表では特に首里方言に焦点を当て,上述のような祖形が提案される主な根拠となる「狭母音脱落による音節構造変化 (例 : *uma > [ʔm̩ma] (馬),*mukade > [ŋ̩kadʑi] (ムカデ) 」に的を絞り,内的再建と比較言語学的観点からの考察を行う。そのうえで,これまでに提案された祖形の妥当性について検討する。

6月4日 (金) 15:00~16:00 「デンマーク語 stoed 研究の諸問題 : 共時論と通時論の両面から最善の音韻解釈を探る」 三村 竜之 (室蘭工業大学)

デンマーク語 (の諸方言) には stoed と呼ばれる声門化 (laryngealization) に似た現象がある。Stoed の研究の歴史は長く,生理・音響音声学的な研究を通じて現象それ自体の詳細は解明されている。一方,20世紀半ば以降,様々な理論的枠組みの中で音韻論的な研究が進められてきたが,未だ種々の問題点が残る (例 : 音韻論的位置付け : 分節音か否か? ; 規則で導くことは可能か否か? ; 弁別的特徴 : 声門化か下降調か? ; stoedの担い手 : 音節かモーラか?,等々)。本発表では,先行研究を批判的に検討し問題点の整理と解決を試み,stoed をストレスアクセント体系の一種として捉えることを提案する。また,ノルウェー語など同系統の諸言語・方言との歴史的な対応関係を視野に入れた際に生ずる有標性のズレの問題点を取り上げ,stoed の共時的な解釈にいかに反映させるべきか (させないべきか) についても考察する。

6月11日 (金) 16:30~17:30 「方言と音楽 ―音楽的知覚に対する音調パターンの影響―」 文 昶允 (筑波大学),黄 竹佑 (名古屋学院大学),橋本 大樹 (上越教育大学)

本研究の目的は,言語の音調体系が音楽の認知能力に与える影響について探究することである。音調とは,声の上がり下がりによるピッチの変化であり,こうした音響的特徴は音楽と類似している。近年の研究によって,言語と音楽の処理にはともに高度な認知能力が求められ,かつ両方の認知メカニズムは決して無関係ではないことが明らかにされている。しかし従来の研究には,①母方言の音調体系による特徴が考慮されていない,②話者が置かれた社会的背景の違いによる,音楽教育の質が考慮されていないという2つの論点が解決すべき課題として残されている。これらの問題をうけ本発表では,東京方言話者と関西方言話者を対象としたパイロット実験の結果を報告し,残された課題について議論する。

6月18日 (金) 16:30~17:30 「「間違っている声調」の脳内処理 ―台湾語変調 ERP 実験の結果分析」 黄 竹佑 (名古屋学院大学),陳 姿因,広瀬 友紀,伊藤 たかね (東京大学)

台湾語は声調言語で,一つの声調が他の声調に後続される場合,別の声調になるという現象が知られている。すべての語には原調と変調という2つの異形態があるが,どちらも話者のレキシコンに存在するか,それとも規則運算によって片方がもう一方を生成させるかについては決定的な根拠が未だにない。本研究では2音節語を使い,違反種類 (変調規則に違反した音声,規則で予測できない声調になった音声,台湾語に存在しない声調を含む音声) を設け,話者が自然と不自然な音声を知覚した際の脳活動を ERP で観測した。実験により以下のことが判明した : ①不自然な音声が提示された後の1000msあたりで陰性波が観測された ; ②陰性波の後には広範囲の陽性波が観測された ; ③その陽性波は違反種類により振幅が有意に異なったという結果が得られた。この結果を先行研究で観測された言語と他の心理プロセスに関する脳波成分と比較して考察を行う。

6月25日 (金) 15:00~16:00 「「ハリー・ポッター」シリーズにおける呪文名の音象徴 : 音節・有声阻害音・母音」 熊谷 学而 (関西大学)

本研究では音象徴の観点から「ハリー・ポッター」シリーズにおける呪文名について探究する。まず,出発点として,音節の長さ,有声阻害音の数,低母音の数の観点から呪文名を分析した。その結果,分析された呪文のうち,最も強く,邪悪な呪文の1つである「アバダ・ケダブラ (Avada Kedavra) 」が有声阻害音と強勢のある低母音を最も多く含んでいた。次に,上記の3つの要因がそれぞれ強い呪文のイメージを喚起させるかどうか,無意味語を用いて実験検証した。その結果,有声阻害音や低母音を含む名前は強い呪文のイメージを喚起することがわかった。これは,ポケモンの名付けの傾向と一致する (e.g. Kawahara et al. 2018: Shih et al. 2019)。また,本シリーズに詳しくない話者の結果を分析した結果,有声阻害音や低母音を含む名前に加えて,音節を多く含む名前も強い呪文として判断しやすいことがわかった。これは,一般の英語母語話者において,量の象徴性 (Haiman 1980) の効果があることを示唆している。

7月2日 (金) 15:00~16:00 「韓国語密陽方言の語形成とアクセント ―混成語形成を中心に―」 姜 英淑 (島根県立大学)

本発表では,韓国語密陽 (Miryang) 方言の混成語形成におけるアクセント特徴について考察を行い,語の長さとアクセントが深く関わっていることを論じる。①te.ku (大邱 : 地名) +a.phɨ.ri.ka (アフリカ) =te.phɨ.ri.ka (暑すぎる大邱の気候をアフリカに例えた例) のように,後部要素 (Y) の長さを引き継いでいるときは,基本的に Y のアクセントを引き継ぎ,②sɨ.thi.kə (ステッカー) +i.mo.thi.khon (絵文字) =sɨ.thi.khon (絵文字ステッカー) のように前部要素 (X) の長さを引き継いでいるときは,X のアクセントを引き継ぐ。③どちらの長さも引き継がないものは,基本的には外来語のアクセントに従う。ただし,このパターンに属するほとんどの例は Y が接尾辞のように振る舞うものであり,アクセントは接尾辞化した Y によって個別的に決まる。

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