シンポジウム 「係り結びと格の通方言的・通時的研究」

シンポジウム 「係り結びと格の通方言的・通時的研究」
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プロジェクト名・リーダー名
日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授)
共催
科研費 19H05354 「日琉諸語の歴史と発展についての総合的研究に向けて」 (新学術領域 「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」 公募班)
科研費 19H01255 「日琉諸語の有標主格性に関する基礎的研究」
科研費 20K20704 「日琉諸語における格という文法カテゴリーの検討」
開催期日
2020年9月19日 (土) 10:00~16:00
2020年9月20日 (日) 10:00~16:30
開催場所
Web開催 (Zoom を使用,事前登録制。事前動画公開あり。)
参加費
無料
事前登録
こちらをご確認ください。

プログラム

9月19日 (土) 係り結び

10:00~10:05 全体の趣旨説明,開催方法の説明

10:05~10:35 「概説 : 琉球諸方言における係り結び研究の展開」 林 由華 (国立国語研究所 / 日本学術振興会)

最近の琉球諸方言では,日本語とは独立した個別の言語としての記述研究が進んでいるが,その中にあっても日本語の研究でしか用いられない「係り結び」という用語が用いられる。琉球諸方言には現代日本語では失われている焦点助詞があり,その焦点助詞の有無と特定の述語形式の出現制限が関わっている場合に,古典語と同じ祖語からの特徴を引き継いだものとしてそのように呼ばれている。しかし,古典語との異同,また琉球内での方言差などはまだ明らかではない。本発表では,焦点助詞とこれに関わる述語形式のそれぞれの性質,またそれらの関係についての最近の主要な記述研究を紹介する。

10:35~11:15 「琉球諸方言における係り結びに関連する述語動詞形式の交替現象」 林 由華

琉球諸方言の大多数に,「焦点助詞が節内にある場合,主節述語として典型的な定動詞形とは異なる非定動詞形が現れる」という,古典語係り結びにおける終止形・連体形の交替と共通した特徴がある。本発表では,諸方言でこれがどのような機能的背景のもとに起こっているのかを調査した結果を示す。本発表での主張は,(i) 大まかに言って宮古八重山タイプと北琉球タイプの2タイプが存在する,(ii) そのうち宮古八重山タイプについては,この動詞述語形式の交替が情報構造上の対立を持っているということである。また,それぞれのタイプが焦点構文の通言語的な類型としてどう位置づけられるかについても議論する。

11:15~11:55 「文タイプとの呼応からみた係り結びの衰退」 衣畑 智秀 (福岡大学 / ワシントン大学)

本発表では,係り結びを文タイプとの呼応と見て,その衰退過程について論じる。宮古諸方言には,係り助詞が,3つの文タイプを区別する方言 (3系列),2つの文タイプを区別する方言 (2系列),文タイプを区別しない方言 (1系列) があるが,これらは,前者から後者への係り助詞の合流が起きた。しかし,それ以前には,疑問文と平叙文を区別する*2系列の方言 (祖語) があり,3系列を経ることで係り結びは衰退に向かったと考えられる。同様に,古代日本語の係り結びも文献以前は疑問文と平叙文をそれぞれカとソが区別したが,平安時代のカ,ヤ,ゾの3系列で文タイプを区別する体系を経て衰退へ向かった。なぜ3系列を経て,係り結びは衰退するのか,本稿ではこの問題を,焦点との関係から説明する。

休憩

13:00~13:40 「古典語の係り結びと情報構造」 近藤 泰弘 (青山学院大学)

平安時代を中心とした日本の古典語には,「係り結び」として知られる,文の「焦点」に係わる現象がある。今回の発表では,国立国語研究所の歴史コーパスを全面的に活用し,助詞と助動詞の全接続関係をデータベース化することで,効率的に係助詞の分布を調査することができた。今回は,そのデータにより,副助詞と係助詞の分布の差異から,それぞれのスコープの在り方について記述する。これによって,副助詞の持つ限定性は,係助詞とはかなり異なることを示す。次に,条件節を受ける係助詞について調査し,その分布が,疑問詞を受ける場合と近似していることを確認した。また,文末の特殊性によるスコープの変異ということが,係り結びの記述にも有用ではないかという仮説を提案する。

13:40~14:20 「古代日本語におけるソ (ゾ) による係り結びの焦点範囲について」 勝又 隆 (福岡教育大学)

古代日本語のソ (ゾ) による係り結びにおいては,上代・中古ともにソ (ゾ) と述語が隣接することが多く,ソ (ゾ) と述語の間に介在要素はあまり現れないことが知られている。
本発表ではまず,『万葉集』に見られるソの係り結びを対象に,ソの出現位置について,ソと他の補語との位置関係として見ても,基本的にソが述語に近い位置に現れる傾向にあること,介在要素としては主語が最も多く現れ,主語にガが付く際はソが述語を分割する例に最も多く現れることを指摘する。次に,ソの係り結びの対比とそれ以外の用法について,焦点範囲にどのようなバリエーションがあるのかについて検討し,ソの係り結びの特徴について考察する。

14:30~16:00 ディスカッション

司会 : 竹内 史郎
コメンテータ : 小田 勝,ジョン・ホイットマン

9月20日 (日) 格

10:00~10:05 2日目の説明,開催方法の説明

10:05~10:45 「有標主格性と情報構造」 下地 理則 (国立国語研究所 / 九州大学)

本発表では,発表者が現在行っている科研 (本セッションのメンバーが全員参加) である「日琉諸方言における有標主格性の基礎的研究」 (科研費基盤B) の概略を紹介するとともに,これまでわかってきたことと,これから取り組む必要がある課題を提示する。まず,狭義の有標主格性 (自動詞文の主語S・他動詞文の主語A・目的語PのうちASを格標示し,Pを無標にする性質) が琉球諸語に広く見られること,広義の有標主格性 (SAが格標示される性質) は本土方言にも広く見られることを確認する。次に,これまでほぼ解明できていない有標主格性の存立基盤について,下地 (2019) の脱主題化モデルを用いて説明を試みる。最後に,脱主題化モデルで解決できていないこと (すなわち本科研の重要な研究課題) を議論する。

10:45~11:25 「富山県朝日町笹川方言の人称代名詞 : 総合的な形態の主格に着目して」 小西 いずみ (東京大学)

笹川方言の1・2人称代名詞単数は単独形oru,waru,主格ora,wa (a) となる。この主格は主題にも非主題にもほぼ義務的に用いられる点で普通名詞の主語標示とは異なる。発表ではこうした格標示の名詞間の分裂について通時的解釈を示す。

11:25~12:05 「福島県北部方言における文の情報構造とイントネーション」 白岩 広行 (立正大学)

母方言話者である発表者自身の内省をもとに,福島県北部方言における文の情報構造の標示をイントネーションに注目して分析した。主語に焦点のある項焦点の文では,イントネーション句による主語の焦点標示が必須である。一方,格助詞「が」の生起は任意である。「が」は主語名詞句が主題でないことを標示すると考えられるが (下地理則氏の「脱主題化仮説」による),その生起は名詞句の有生性や動作主性,あるいはスタイル差などによって左右される程度差の問題ではないかと考えられる。

休憩

13:00~13:40 「中世末期中央語の主語標示とガの機能の歴史的変化」 竹内 史郎 (成城大学)

言語類型論の観点を取り入れて,中世末期中央語の主節に新しく生じた格配列に関する問題を扱う。この格配列の変化は,主節の主語標示が無助詞であったところにガが参入してくることによって引き起こされるが,この発表では,その動機,経路,さらには起源を明らかにしていく。また,格配列の変化の結果もたらされることになった中世末期の主節のハイブリッドな性格にも言及する。

13:40~14:20 「近世近代における上方語の格標示について」 坂井 美日 (鹿児島大学)

有標主格に関する歴史的研究は,有標主格言語のデータ自体が希少であるため,従来ほとんど進んでいなかった。しかし,日本京都方言には有標主格性があり,かつ,豊富な歴史口語資料がのこっている。本発表では,京都方言が有標主格性を獲得する過程を文献学的に観察し,有標主格成立の一例を示すとともに,そのプロセスや仕組みについて考察する。具体的には,1. 京都方言は,19世紀までには有標主格性を獲得していた。2. 有標主格成立の動機は,主語目的語の相互識別ではなく,情報構造上の識別 (特に主題性) である。3. 京都方言は,有標対格の対格型→徹底有標の対格型→有標主格の対格型へと変遷したということを述べる。なお京都方言のプロセスは,アフリカの言語の有標主格獲得のプロセスと類似する点があり,注目に値する。

14:20~15:00 「関西方言の格配列 : 有標性と頻度の観点から」 中川 奈津子 (国立国語研究所)

本発表では,関西方言の格標示体系を考察する。分裂自動詞型と能格-絶対格型が混在していることを確認し,主に東京方言の先行研究と合わせて,なぜこのような複雑な体系になっているのか議論する。日本語でもトルコ語やアルメニア語のように,典型的な主題・焦点は無標識,非典型的な主題・焦点は有標識になるという現象だと捉えられるが,より多くの変数がからみ,複雑であることを見る。主に東京方言の先行研究と合わせて,なぜこのような複雑な体系になっているのか有標性と頻度の観点から議論した後,コーパス調査により,典型的な主題・焦点の頻度が本当に高いのか検証する。

15:10~16:30 ディスカッション

司会 : 木部 暢子
コメンテータ : 金水 敏,佐々木 冠

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お問い合わせ先

林 由華 (国立国語研究所 言語変異研究領域 特別研究員 (PD))
E-mail : yufaster[at]gmail.com[at]を@に置き換えてください。