KLSワークショップ 「日英語の移動表現における経路表示の多様性と第二言語習得」
- プロジェクト名・リーダー名
- 対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
- 班名・リーダー名
- 文法研究班 「動詞の意味構造」
松本 曜 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授) - 開催期日
- 平成30年年6月9日 (土) 10:00~12:00
- 開催場所
- 甲南大学 岡本キャンパス 8号館 (兵庫県神戸市東灘区岡本8-9-1)
アクセス
事前申込み不要です。
本ワークショップについて
本ワークショップは,移動表現の中でも経路の表示方法に焦点を当て,その多様性と第二言語習得における特徴について議論し,これからの移動表現研究の可能性について提案を行う。
Talmy (1990) は,移動事象に関わる諸概念の中でも経路に着目して世界の言語を二分する類型論を提唱した。そこでは経路を文の主要部である動詞で表す日本語のような言語はV言語 (verb-framed language),主要部以外の要素で表す英語のような言語は,S言語 (satellite-framed language) に分類されるが,その後,この類型間の違いについて多くの研究がなされてきた。しかし,経路には様々なものが存在し,その種類別の表現パターンの解明は,未だ問題として残されている。またその差異が第二言語の習得にどのように影響を与えるかも明らかではない。
本ワークショップはそのような流れの中で,二つの提案を行う。まず,日英語母語話者の表現を取り上げ,経路表示の多様性を示す。その上で,第二言語として各言語を学ぶ学習者の表現をそれらと双方向的に比較し,その特徴と要因を検討し,提示する。対象とする学習者グループは,日本語母語の英語学習者 (E-L2 (j) ) と,英語母語の日本語学習者 (J-L2 (e) ) である。
本ワークショップでは統一的に,15種類の経路 (例 : to, from, up, around, along, through) を含む移動事象のビデオを使用した産出実験からデータを得ることで,表現の比較を可能とした。その実験結果に基づき,以下四つの発表を行う。
これらの発表を通し,経路概念の多様性と日英語での表出方法の特徴を明らかにし,経路表示に対し異なる特徴を持つ日英語を学習者が習得する際に見られる特徴を示す。その上で,移動表現の類型論でこの問題をどのように扱うべきなのか,第二言語習得上の課題,言語教育への応用可能性,などについて指定討論者を交え,フロアと議論を行いたい。
「経路表示の多様性と英語での表出方法」 眞野 美穂 (鳴門教育大学)
この発表では,導入として,移動表現の類型と経路の表示方法を紹介した上で,実験結果から,英語母語話者 (E-L1) は,取り上げた経路のほぼすべてを前置詞句または不変化詞で表すこと,つまり経路表示に多様性が少ないことを指摘する。
「日本語移動表現における経路表示の多様性」 吉成 祐子 (岐阜大学)
この発表では,英語とは逆に,経路の種類によって多様な表出方法をとる日本語について報告する。パターンとして,最も多い複合形式での経路動詞使用だけでなく,後置詞句で表すもの,主動詞のみで表すもの,位置名詞を用いて表すものなど,経路によって異なる特徴が見られることを指摘する。
「日本語母語英語学習者の経路表出の特徴」 眞野 美穂 (鳴門教育大学)
この発表では,E-L2 (j) が経路を前置詞句で示す点で英語の表現パターンを習得していることを指摘した上で,経路の種類によっては描写が困難なものがあることを示す。困難なものには,母語である日本語において「ポストの前を通った」のように対格を取る経路動詞で表される経路が多く含まれることを示し,その要因を探る。
「英語母語日本語学習者の経路表出の特徴」 江口 清子 (宮崎大学)
この発表では,まず,経路の種類によって多様な表出方法をとる,経路の表現に複合動詞や複雑述語を多く用いるという日本語母語話者の経路表出の特徴に対し,J-L2 (e) ではそれらがほとんど見られないことを報告する。さらに,母語話者の表現では一部非対称性が見られる (例 : 「中に入った」vs.「出てきた」) のに対し,学習者の表現では対称的である (例 : 「入った」vs.「出た」) ことを指摘し,それぞれの要因を探る。
「コメント」 松本 曜 (国立国語研究所)
今回の研究の成果が,移動表現の類型論においてどのような意義を持つかについて議論する。