平成28年度 コーパス合同シンポジウム「コーパスに見る日本語のバリエーション―助詞のすがた―」
- 主催
- 国立国語研究所 : 言語変異研究領域
言語変化研究領域
音声言語研究領域
日本語教育研究領域 - プロジェクト名,リーダー名
- 日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授)
- 通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開小木曽 智信 (国立国語研究所 言語変化研究領域 准教授)
- 大規模日常会話コーパスに基づく話し言葉の多角的研究小磯 花絵 (国立国語研究所 音声言語研究領域 准教授)
- 日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明
(学習者コーパスに基づく第二言語としての日本語の習得研究)迫田 久美子 (国立国語研究所 日本語教育研究領域 客員教員) - 共催
- 科研費 基盤A : 日本語諸方言コーパスの構築とコーパスを使った方言研究の開拓
- 科研費 基盤A : 日本語歴史コーパスの多層的拡張による精密化とその活用
- 科研費 基盤A : 海外連携による日本語学習者コーパスの構築および言語習得と教育への応用研究
- 科研費 基盤B : コーパス言語学的手法に基づく会話音声の韻律特徴の体系化
- 開催期日
- 平成29年3月9日 (木) 9:30~17:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
概要
助詞は,主語や目的語,補語といった文の骨格を表したり,主題や焦点といった談話上の機能を表したりと,さまざまな役割を持っています。現代語の書き言葉では,助詞の使いかたの研究が盛んですが,それ以外の日本語,たとえば,話し言葉,方言,古典語,学習者の日本語などでは,助詞の研究がまだあまり進んでいません。このシンポジウムでは,各種コ―パスを使って,「助詞のすがた」を観察するときに,どのような視点や方法があるのかを考えます。
プログラム
9:30~9:40開会の挨拶
9:40~10:40招待講演「日琉諸語における格標示と焦点化 ―格と取り立ての体系的な研究を目指して」下地 理則
発表では,発表者のフィールドデータおよび既存の研究成果をもとに,日琉諸語の格体系の多様性を描き出すとともに,その多様性にみられる一定の規則性や制限を類型論的な観点から論じた。標準語の,しかも文語を前提とした研究枠組みからは「格助詞の省略」とされ,たいして関心を持たれなかった無助詞現象を積極的に取り上げるとともに,格と情報構造 (取り立て) を統一的に扱うアプローチを示しながら,日琉諸語の格体系を考える際に問題となる点,理論的に重要な点を指摘した。
10:40~11:20「諸方言コーパスに見る日本語諸方言の助詞」木部 暢子
日本語標準語では,主格標識に助詞「が」を,対格標識に助詞「を」を使用するが,東京の話し言葉では,無助詞で主格や対格を標示することがある (例 : 「太郎 本 読んでるよ」)。諸方言を見ると,東北では基本的に無助詞形式で格標示を行い,西日本や九州では基本的に助詞を使って格標示を行うといった地域差がある。「諸方言コーパス」を利用して,日本語における格標識の地域差について報告した。
11:30~12:30デモンストレーション
14:00~14:40「書き言葉コーパスに見る助詞の時代差・文体差」小木曽 智信
日本語の助詞の多くは上代から継続して用いられているが,その用法は歴史的に変化してきた。たとえば格助詞は古代語から近代語への流れの中で大きく変化している。発表では『日本語歴史コーパス』を中心に『現代日本語書き言葉均衡コーパス』も用いて,助詞の時代差・文体差について計量的な観点から調査した結果を報告した。
14:40~15:00「『現代日本語書き言葉均衡コーパス』に対する述語項構造アノテーションの分析」浅原 正幸,岡 照晃
日本語における格要素のふるまいを調査するためにアノテーションを行う手法がある。発表では述語と格要素の関係を『現代日本語書き言葉均衡コーパス』コアデータに付与した BCCWJ-PAS のアノテーション基準やデータの基礎統計を紹介するとともに,同データを用いた格助詞産出過程の統計的分析手法について紹介した。
15:10~15:50「話しことばコーパスに見る助詞のイントネーション」小磯 花絵
上昇調や上昇下降調などの上昇成分を伴う音調は,文末だけでなく,文中の格助詞や接続助詞などにも多く見られる。発表では,『日本語話し言葉コーパス』を対象に,文中に現れる助詞の音調の出現傾向を調査した結果について報告した。特に,上昇成分を伴う音調と統語構造との関係に着目して考察した。
15:50~16:30「日本語学習者における助詞の誤用と習得研究」迫田 久美子
助詞の誤用は頻度が高く,これまで誤用分析の研究対象として取り上げられることが多かった。発表では,「は・が」や「に・で」等の助詞に関する第二言語習得研究の成果と問題点を概観し,中国語,韓国語,スペイン語,フランス語,英語,インドネシア語を母語とする日本語学習者のコーパスを利用して,話す場合と書く場合の助詞の誤用傾向について報告した。