「語用論的推論に関する比較認知神経科学的研究」研究発表会
- プロジェクト名・リーダー名
- 語用論的推論に関する比較認知神経科学的研究
酒井 弘 (早稲田大学) - 開催期日
- 平成29年2月11日 (土) 13:00~17:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内
研究会の概要
語用論研究の分野では,近年,自然発話コーパスや母語話者による文法性判断などの伝統的データに加えて,読文時間や脳波・脳機能イメージなどの実験的データを使用した研究プロジェクトが急激に増加している。今回の研究会では,このような世界的潮流を踏まえて実験的手法を利用した語用論的推論の研究を進めるために,どのような対象に対してどのような手法を使用することが有効かという問題を検討する。具体的には,前半のセッションで意味論の観点から談話機能を有する言語形式に関する研究について概説して具体的な研究成果 (原) を発表し,後半のセッションでは語用論の観点から前提と推論の認知メカニズムに関する研究について概説して具体的な研究成果 (須藤) を発表する。
プログラム
13:00~13:15 開催の挨拶及びプロジェクトの趣旨説明 酒井 弘 (早稲田大学)
13:15~14:45 セッション1 「意味論と語用論のインターフェイス : 日本語の証拠性を中心に」 原 由理枝 (早稲田大学)
私たちの日常会話における発話には,文の文字通り (literal) の意味 (at-issuemeaning) のほかに,二次的意味 (secondarymeaning) が付随することがよくある。たとえば,「このスープは暖かい」という発話は,「このスープは熱くはない」という意味内容を含んでいると解釈できる。また,日本語の「雨が降ったようだ」という発話は,「雨が降った」という情報以外にも,「発話者が『雨が降った』という事象の間接証拠を持っている」という情報も含んでいると解釈される。
グライスの理論によれば,最初の例の「このスープは熱くはない」という意味内容は,文の統語及び意味計算が完了した後,語用論において,協調原理 (cooperative principle) と会話の格率 (conversational maxims) に基づいて計算されるものであり,会話の含意 (conversational implicature) と呼ばれる。また,近年,いわゆる言外の意味のなかには,会話の含意のほかにも,規約の含意 (conventional implicature) と呼ばれる独立した意味範疇があることの重要性がポッツによって示された。
日本語は,二番目の例のような証拠性を示す表現,敬語表現など,二次的意味を持つ語彙が豊富であり,こうした表現の研究が,現代の形式意味論・語用論に大きく貢献することが期待される。
本発表では,まず,グライスとポッツの理論を概観した後,日本語の証拠性表現をケーススタディとして,意味論と語用論のインターフェイスについて考察する。
14:45~15:00 休憩
15:00~16:30 セッション2 「スカラー含意研究の動向」 須藤 靖直 (ロンドン大学)
本発表ではスカラー含意 (scalar implicature) と呼ばれる推論に関する最近の研究の動向をまとめ,日本語の研究から得られるであろう理論的成果を考察する。まず最初にスカラー含意の埋め込み問題に関する新グライス主義語用論と文法的アプローチの間の論争を概観した後,対称性問題に関する理論を紹介する。
最後に日本語を中心に,スカラー含意の通言語的研究から得られる理論的知見に関して考察する。