「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」研究発表会

プロジェクト名・リーダー名
日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授)
共催
科研費
「日本語の分裂自動詞性」
「日本語諸方言コーパスの構築とコーパスを使った方言研究の開拓」
開催期日
平成28年9月19日 (月) 13:00~18:00
平成28年9月20日 (火) 10:00~16:00
10:00~11:00 【講演】 東京外国語大学 風間 伸次郎
開催場所
国立国語研究所 2階 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

趣旨

文法関係の標示を担う「格」と,談話・情報構造の標示を担う「取り立て」は,日本語研究を行ううえでは切っても切れない関係にある。例えば主要項の格標示「が」「を」が取り立て標示の「は」と範列的に対立するように,主要項の格標示と取り立て標示を1つのシステムとして考える必要がある。また,有形の格標示・取り立て標示を欠く無助詞名詞句の機能もまた,格と取り立ての両方を視野に入れなければ解決できない。日本語の特質といってもよい上記の問題を包括的に理解するには,文語だけでなく口語,標準語だけでなく方言,現代語だけでなく古典語にまで視野を広げる必要がある。

本研究では,格と取り立てをめぐる諸現象について,日本語方言・琉球語・古典語の具体的な事例から見えてくる問題を議論し,理解を深めることを目的とする。

発表概要

平成28年9月19日 (月) 13:00~18:00

13:00~13:50 「主節の主語標示ガの発達について ―中央語の歴史における―」 竹内 史郎

埋め込み文において使用されていた主語標示ガは,中世以降,主文でも使用されるようになっていく。この発表では,主文における焦点の範囲の定め方と主語標示との関係に着目してガの発達について論じた。すなわち,主文の焦点の範囲の定め方は,主語標示と主節末の形態とが協調するというやり方から,単にガのありなしで行うというやり方へと変化した。この変化には「終止形と連体形の合一」が密接に関わっている。こうした変化に伴い,ガの性質は [ +genitive ] から [ -topic ] へと変化したと考えられる。

13:50~14:40 「関東地方の方言における格と文法関係」 佐々木 冠

標準語の「に」と「の」は幅広い意味役割と文法関係に対応する。これらの格助詞が用いられる領域が複数の格助詞によって分割されている方言が関東地方には存在する。このような言語体系は斜格要素や連体修飾格における文法関係のコード化を考える上で興味深い材料を提供する。本発表では,千葉・茨城・埼玉に分布する方言の格体系の分析を通して意味的特定性と斜格性を区別する必要があることを明らかにした。

14:40~15:00 休憩

15:00~15:50 「富山市方言における主語・目的語標示と主題標示」 小西 いずみ

富山市方言では,主語・直接目的語および主題が Ø (無助詞) で標示されることが多い。主語と主題を表す形式にはアもあり,また,提題助詞として「と+は」に由来する「チャ」などを発達させてもいる。本発表では,談話資料により,Ø と有形の格・提題形式とがどのように運用されているかを整理した。さらに,この方言において格と主題の関係をどのように把握すべきかを検討した。

15:50~16:40 「諸方言コーパスに見る格と取り立て ―九州方言を中心に―」 木部 暢子

日本語諸方言の主語・目的語の標示のしかたには,地域により差がある。例えば,青森県弘前市方言は,主語・目的語ともに無助詞が基本,広島市方言や鹿児島県頴娃町方言は,主語を「が」で,目的語を「を」で標示するのが基本,東京方言や福岡県北九州市方言は,主語は「が」で標示するが,目的語は「を」または無助詞で標示する。本発表では,助詞が義務的に現れる鹿児島頴娃町方言と,助詞が出現したりしなかったりする福岡県北九州市方言を取り上げ,タイプの異なる2方言において,格と取り立てがどのように標示されるのかについて考察した。なお,資料としては,現在,「危機言語・方言」プロジェクトが作成中の「日本語諸方言コーパス」を利用した。

16:40~17:00 休憩

17:00~18:00 ディスカッション

平成28年9月20日 (火) 10:00~16:00

10:00~11:00 【講演】 「「連体形」の定動詞化について」 風間 伸次郎

ツングース諸語やモンゴル諸語などのアルタイ諸言語では,いわゆる形動詞 (格を取り名詞項になり,連体修飾もできる形式) が歴史的に定動詞化してきた,ということが言われる。これは日本語史で「終止形と連体形の合一」といわれる現象と類似している。このことは係り結びの消失とも関係が深いともされている。本発表では,まず「具体物無標標示型言語と総称無標表示型言語」という類型論的な分類のアイデアを示し,しかるのちに上記の歴史的変遷をやや具体的に紹介した。その上で「係り結び」という現象の定義や諸特徴についても再考した。

11:00~11:50 「琉球諸語のとりたて ―那覇方言のとりたて助詞 du を中心に―」 かりまた しげひさ

琉球諸語にあまねく見られる du は,古代語の係助詞ゾに対応するといわれる。沖縄那覇方言の du がさまざまなモーダルなタイプの文の中で果たす文法的な機能と文法的な意味について検討した。那覇方言の du が ja (は),N (も) ,NcjoN (さえ) などのとりたて助詞の中にどのように位置づけられるか,du の“係り結び”の機能の有無についても検討した。

11:50~12:40 「格・取り立てと無助詞現象 : 琉球語と九州方言を例に」 下地 理則

格と取り立てを体系的に考えるうえで,主語・目的語の無助詞現象とその体系上の位置づけは重要な問題である。本発表では,琉球語与那国方言の無助詞主語の分析上の問題点を指摘した。さらに,主語も目的語もほぼ常に有形格標示される琉球語宮古伊良部方言も考察することで,無助詞現象が生じない (あるいはきわめて限定的である) ことが取り立てシステムにどのような影響を与えるか,という問題にも言及した。

12:40~13:30 昼休み

13:30~14:20 「談話から見る黒島方言の格標示」 原田 走一郎

黒島方言においては主語を nu,目的語を ju もしくは ba でマークする,と従来されてきた。本発表では,自然談話を用い,これらの配列を検証する。従来の指摘通りの結果も得られた一方で,その範囲ではとらえられない現象も観察された。まず,少数ではあるが,自動詞の主語に ju,ba が用いられることが確認された。また,無視できない数の無助詞も確認された。本発表は自然談話の観察をとおしたこれらの標識のすみわけについての試論である。

14:20~15:10 「宮古大神島方言 名詞の格ととりたて」 金田 章宏

本発表では島の人口が20数人という宮古大神島方言の格の概要を紹介した。この方言にも,宮古諸方言などと同様にガ・ヌに対応する主格と連体格のからみあいがみられる。また,対格や与格,共格,限界格には複数の形式が対応していて,格形式が多様である。与格相当で中心的な位置にあるン形は,ニテ以前のニのままで動作のおこなわれる場所の意味で使用され,ニテ由来の形式がみられないのだが,それは動詞の第二中止 (シテ) 形が使用されないようにみえるのと関連するだろう。

15:10~15:20 休憩

15:20~16:00 ディスカッション