「コミュニケーションのための言語と教育の研究」研究発表会

プロジェクト名
コミュニケーションのための言語と教育の研究 (略称 : コミュニケーション)
リーダー名
野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 教授)
開催期日
平成28年2月27日 (土) 13:30~17:00
開催場所
TKPガーデンシティ博多アネックス (福岡県福岡市博多区博多駅前4-11-18 ホテルサンライン福岡博多駅前2F)
アクセス

どなたでも参加可能 (事前登録不要・参加費無料) です。

発表概要

「言語使用実態調査に基づく聴解教材の作成方法」 野田 尚史 (国立国語研究所)

従来の日本語学習者向けの聴解教材は,現実に話されている日本語ではなく,すでに学習した語彙や文型を使った日本語を聞かせるものになっていたり,日本語を聞かせて内容の正誤を問う問題をさせるだけで,どのような聴解技術を使ったらうまく聞けるようになるかがわからなかったりするものが多かった。
この発表では,他の3つの発表の導入として,現実に話されている日本語を聞きとれるようにするための聴解教材を作成する方法について述べる。具体的には,それぞれの状況で現実に話されている日本語を調査したり,学習者がそうした日本語を聞きとるときの困難点を調査したりした結果をもとにして,学習者に必要な聴解技術を抽出し,それをわかりやすく伝える説明を考え,その聴解技術を習得できる練習問題を作るという基本的な方針である。

「言語使用実態調査に基づくコーヒーショップでの注文時の聴解教材」 島津 浩美 (神戸大学)

どこの国にでもあり,よく利用するであろうコーヒーショップだが,日本語学習者が日本でコーヒーを購入するとき,戸惑うことも多い。そこで,日本では現実に店員との間でどんなやり取りが行われているのかという実態調査を行い,学習者がそうした日本語を聞きとるときの困難点を調査した結果をもとにして,次のような教材を作成した。

  1. 日本語学習者の国では質問されることがないため,なぜ質問されるのかわからず聞きとれなかったという結果から,日本ではどんな質問がされるのかを日本語学習者の母語で説明する。例えば,日本では,コーヒーをアイスでも提供しているため,ホットかアイスかを質問されるということを説明する。
  2. 日本語学習者の国でも同様の質問をされないわけではないが,最初に質問されるとは思わず聞きとれなかったという結果から,どの時点で質問をされるかを日本語学習者の母語で説明する。例えば,日本では,テイクアウトかどうかは注文する前に質問されるということを説明する。
  3. 聞きなれない敬語で質問されたため,何を質問されたか聞きとれなかったという結果から,現実の場面でよく使われる接客表現を聞きとりのポイントとして抽出し,その音声を聞いて意味を理解する練習問題を作る。例えば,「お召し上がり」,「お持ち帰り」といった表現を聞きとりのポイントとし,接客表現を聞きとる練習問題を作る。

「言語使用実態調査に基づく訪問者応対時の聴解教材」 太原 ゆか (日本国際協力センター)

自宅のインターホンを介して,訪問者とどのようなやり取りが行われているのかという実態調査を行った結果,未知の訪問者は,荷物などの配達の場合とセールスや新聞の勧誘などの場合の大きく2種類であることが分かった。両者は,「玄関ドアをあけなければならないかどうか」という点において,大きな違いがあるため,「配達か否か」という点を聞き分けられることが重要となる。学習者が「配達か否か」を判断するために,最低限聞き取らなければならない語彙・表現を抽出して,次のような練習問題を作成した。

  1. 「配達」の際に訪問者が使う「郵便」,「お荷物」などを提示し,それを手掛かりにして,「配達であること」を判断できるようになる問題
  2. セールスや勧誘など,「配達」以外の訪問者に特徴的な「長い言い回しの表現」を聞いて,特定の語句ではなく発話の長さから判断して,「配達ではない」ことを判断できるようになる問題

「言語使用実態調査に基づく大学講義の聴解教材」 萩原 章子 (国際基督教大学)

講義を聞く過程で何に着目すれば理解を促すことができるのかを探るため,学習者に実際の講義を聞かせ聴解過程を調査した。その結果をもとにして,次のような教材を作成した。

  1. 「要するに」「というのは」に続く語句が聞き取れば,これらの語句の前に述べられている難解な語句が平易に言い換えられているとわかる可能性が高い。つまり「要するに」「というのは」の前述の内容を聞き逃しても,これらの言葉に続く言葉に注意すれば重要な概念がつかめることを示す。
  2. 「一方」「ところが」のような言葉は,講師が二つの事柄を比較しているのを理解する手掛かりとなる。ある内容を述べた後に出現する「一方」「ところが」が聞き取れれば,前述の内容と対照的な事柄が続くだろうという予測が立てやすくなることを示す。

教材全体として講義の展開や内容理解に役立つ語句を抽出した。この方針は,重要語句が聞き取れれば一語一句把握できなくても講義全体の理解促進につながるという考えに基づく。