「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」研究発表会

プロジェクト名
日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究
リーダー名
John WHITMAN
開催期日
平成27年12月5日 (土) 13:30~18:50
平成27年12月6日 (日) 10:30~14:30
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

アイヌ語班 平成27年度 第2回研究発表会

平成27年12月5日 (土)

「十勝地方におけるアイヌ口頭伝承の語り方について:関連性理論の観点から」高橋 靖以 (北海道大学アイヌ・先住民研究センター)

十勝地方のアイヌ口頭伝承 (特に散文の物語) においては,他地域と異なり,語りの切れ目で聞き手が合いの手を入れることが知られている。本発表では,この語りの形式について,関連性理論 (relevance theory : Sperber and Wilson 1995) の観点から分析をおこなう。

「アイヌ語の主要古文献とアイヌ語史の諸問題」佐藤 知己 (北海道大学)

江戸時代の日本側のアイヌ語文献の中から年代,内容の面で重要な文献を選び,それぞれについて注目すべき点を述べる。また,これらの文献から推定される,アイヌ語に起こったと考えられる歴史的変化について仮説を述べる。特に,現代のアイヌ語資料と異なる点について,その相違がどういう原因によるものなのかを考察する。

「アイヌ語樺太方言の特徴」丹菊 逸治 (北海道大学アイヌ・先住民研究センター)

アイヌ語樺太方言の,(1) 人称接辞において,1人称のみ単数形と複数形が同形となること,(2) 複数マーカーが動詞接辞 -hci・名詞接辞 -hcin という共通性をみせること,などは隣接するニヴフ語と並行的な現象である。だが,1人称複数形 an- は不定用法を含め北海道方言と共通し,複数マーカーもニヴフ語と異なり動作の複数性を表す。これらニヴフ語との類似は影響関係によるとしても限定的である。

「アイヌ語における動詞の助動詞用法と制約」岸本 宜久 (北海道大学大学院)

アイヌ語の助動詞には動詞から転成した形式があり,このうち一部は動詞としての意味を保ったまま先行する本動詞と意味上で複合することから,いわゆる動詞連続構造 (SVC) と非常に近い構造を示している。本発表ではアイヌ語沙流方言の資料分析を通じ,動詞から転成された助動詞の自他の違いにみられる制約について,特に自動詞からの転成における制約の理由および制約下で許容される形式の特徴について SVC の枠組みから説明付けを試みる。

全体討論

平成27年12月6日 (日)

「アイヌ口承文学における言語的特徴とジャンルによる差異」遠藤 志保 (北海道博物館)

アイヌ口承文学のジャンルを概観したうえで,口承文学における言語的特徴を地域・ジャンルによる差異に着目しながら論じる。統語論的な差異としては,人称 (特に一人称) の地域・ジャンルによる違いをとりあげてまとめる。また,語彙の差異についても,特に韻文 (神謡・英雄叙事詩・祈り言葉) における相違についていくつかのトピックをとりあげる。

「アイヌ語の系統と歴史」奥田 統己 (札幌学院大学)

アイヌ語の系統は現在のところ不明である。これまでさまざまな系統関係の提案がなされてきたが,いずれも検討に値する仮説の域には達していない。形質人類学的な人間集団としてのアイヌの歴史は縄文時代またはそれ以前にさかのぼるとされるが,そのことと言語の系統とは別問題である。文献以前のアイヌ語の歴史を探る手がかりの一つは地名である。アイヌ語地名は北海道だけでなく樺太南半部や千島列島,また本州の東北地方北部にも数多く存在することが知られている。

全体討論