「日本語のアスペクト・ヴォイス・格」

プロジェクト名,リーダー名
消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究 (略称 : 危機方言)
木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
共催
科研費
「消滅危機言語としての琉球諸語・八丈語の文法記述に関する基礎的研究」
「日本語の分裂自動詞性」
開催期日
平成27年8月21日 (金) 13:00~18:30
平成27年8月22日 (土) 9:30~17:20
平成27年8月23日 (日) 9:30~15:30
開催場所
国立国語研究所 2階 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

発表概要

平成27年8月21日 (金)

13:00~18:30 「アスペクト・ヴォイス」

13:00~13:50「津堅方言のテンス・アスペクト ―進行相を中心に―」又吉 里美

津堅方言におけるテンス・アスペクトについて,特に進行相の形態と意味について記述する。進行相の形式には,たとえば「飲んでいる」に対応するものとして,nuruN,numiNzjaN,nurakuNの3つの形態が認められる。これらの3つの形態について,形態統語的特徴および意味的特徴の相違を整理して,提示する。

13:50~14:40「沖縄今帰仁方言のアスペクト・エビデンシャリティ」島袋 幸子

沖縄今帰仁方言の動詞はテンス・アスペクトと関わって直接確認を明示する形式と間接確認を明示する認識的ムード (エビデンシャリティー) の形式を派生させている。シテヲル相当形式の過去形 (suːt'aN) とシテアル相当形式 (sic'aN) があらわす認識的ムードの文法的な意味を中心に,今帰仁方言のアスペクト・テンス・エビデンシャリティ体系について報告する。

14:40~14:55休憩

14:55~15:45「八重山語石垣方言の間接エビデンシャリティ」狩俣 繁久

南琉球石垣島四箇方言の客体結果をあらわす形式は,パーフェクトや間接的エビデンシャリティを表わす形式を派生させている。沖縄首里方言や宮古野原方言と対比させながら四箇方言のアスペクト,パーフェクト,間接的エビデンシャリティを概観し,四箇方言のアスペクト・テンス・エビデンシャリティ体系の特徴について報告する。

15:45~16:35「池間方言のテンス・アスペクト形式の意味について―完了表現を中心に」林 由華

池間方言におけるテンス・アスペクト関連形式の意味を,主に日本語との対照によって記述する。日本語のタ形 (過去形) の意味範囲には複数の形式が対応しているが,本発表では,池間方言のテンス・アスペクト体系全体を示したうえでそれらの住み分け方について述べる。

16:35~16:50休憩

16:50~17:40「黒島方言のヴォイス・アスペクト」原田 走一郎,荻野 千砂子

現地調査によって得られたデータを基に,南琉球八重山地方黒島方言におけるヴォイスならびにアスペクトの概観を行う。今回の発表では文法スケッチ作成を念頭に,ヴォイスとアスペクトの全体像を示すことを第一の目的とする。現時点において,アスペクト形式に複数の形態素が見られるのであるが,異形態なのか意味機能の弁別があるのかが不明である。議論を深めるため,試案を提出する。

17:40~18:30「北琉球沖縄久高島方言のアスペクト・ヴォイス接辞と主語・目的語のケースマーキング」新永 悠人

沖縄県の久高島で話されている方言では,主語には有形の格標示 ( ga または nu ) がある一方,目的語にはない。また,主語は有形の格標示を取らない場合もある。本発表では,特に主語において,ga,nu,ゼロ標示がどのような条件で現れるのかを動詞のアスペクト・ヴォイス接辞に注目して整理・発表する。

平成27年8月22日 (土)

9:30~12:20 「ヴォイス・アスペクト」

9:30~10:20「首里方言のヴォイスと利益性」當山 奈那

首里方言の利益性について,受動文,使役文,授受文を分析する。当該方言が使役も受動も意味構造上利益性を獲得しなかったこと,授受動詞が文法的な形式としては完全に文法化していないことを述べる。また,現代日本語と比較しながら利益性発達の要因と発達過程を考察する。

10:20~11:10「動詞の形態論的なカテゴリー ―「メノマエ性」,「二重使役」などのこと―」松本 泰丈

11:10~11:30休憩

11:30~12:20「北海道方言のヴォイスとアスペクト」佐々木 冠

北海道方言には3種類の派生的な動作主削除型の自動詞文が存在する。自発接尾辞を用いた逆使役構文とテアル結果構文と有対自動詞を述部とする構文である。本発表では3種類の相違に着目し,それぞれの自動詞文を派生するメカニズムを明らかにする。

13:30~17:20 「格」

13:30~14:20「本州方言における他動詞文の主語と目的語を区別するストラテジー ─関西方言と宮城県登米方言の分析─」竹内 史郎,松丸 真大

通言語的研究においてグローバル・ストラテジーと称される,他動詞文の主語と目的語を区別するやり方がある。この区別のし方は,一見遠い異言語にそなわるものと眺められがちだが,実のところ本州方言にも認められ,なおかつきわめて身近なものである。この発表では,関西方言と宮城県登米方言のデータに基づき,語順,格標示といった手段が有生性効果と協調してどのように主語と目的語の区別を行うのかを見ていく。

14:20~15:10「九州琉球におけるガ系とノ系による主語表示 ─類型と歴史─」下地 理則,坂井 美日

九州と琉球の多くの方言で,主語の格においてガ系とノ系の交替がみられ,しかもその交替条件は類似している点も多い。本発表では,九州・琉球の複数の方言を取り上げ,主語名詞句の有生性・述語の意味特性・節の情報構造・節のタイプ (主節・連体節) など,いくつかの変数をベースにガ系とノ系の交替に関する類型化を行うとともに,共時的なバリエーションをもたらす通時的な発達過程についての試論を示す。

15:10~15:40休憩

15:40~16:30「古代日本語動詞述語文の格標示方法について」後藤 睦

古代日本語においては,現代日本語と異なる格体制が見られる場合がある。本発表では,古代語における動詞「問ふ」の格体制を取り上げる。発表では,古代日本語動詞述語文における動詞「問ふ」の格体制が,奈良時代語の「人ヲ……ト問ふ」から平安時代語の「人ニ……ト問ふ」に交替することを指摘する。また,このことから,古代語における斜格の格標示方法が現代語と異なっている可能性を述べる。

16:30~17:20「日本語方言の斜格」佐々木 冠

近年,日本語方言における文法関係のコード化の多様性が着目されているが,日本語方言は斜格のあり方に関しても多様性を示す。本発表では,斜格主語や降格した動作主のあり方を中心に日本語方言の斜格の多様性について論じる。

平成27年8月23日 (日)

9:30~12:30 「格」

9:30~10:20「日本語諸方言におけるゼロ格」木部 暢子

現在,作成中の方言コーパスを使って,格標示方法の地域,特にゼロ格 (無助詞で格を標示する現象) の地域差を概観する。国立国語研究所編『方言文法全国地図』第1巻によると,「が」「を」に当たる助詞をゼロで表現する地域は,主として東北と関西となっている。方言コーパスで各地の自然談話中の主格と対格のゼロ格標示例を検索すると,ゼロ格の出現率が各地で異なっていることが分かる。これに基づき,ゼロ格の持つ意味が各地で異なっていることについて述べる。

10:20~11:10「富山市方言におけるゼロ格」小西 いずみ

富山市方言では,自動詞・他動詞の主語、他動詞の目的語,着点を表す場所名詞句などが,述語との隣接性や焦点位置によらず無助詞となる。この発表では,ひとまずこれをゼロ格とし,統語的分布を記述する。特に「花子{に/*φ}本φやる」「花子{に/*φ}本φ読んでもらう」など間接目的語,テモラウ文の動作主はゼロ格が不可,「花子φ本φ読ませる」など他動詞使役文の動作主は可となる点に注目し,分布格の立場で捉え直す。

11:10~11:30休憩

11:30~12:20「宮崎県椎葉村方言 格におけるいくつかの特徴」金田 章宏

昨年度から実施されている,宮崎県椎葉村と国立国語研究所の合同方言調査について,その結果の一部を中間報告する。この方言には、「ここにガある。」のように与格に助辞ガが付属して焦点化する用法や,八丈方言にもみられる「私ののは赤いのはない。」のような格の二重表示といった,たいへん興味深い文法現象がみられる。

13:30~15:30 ディスカッション