「日本語の大規模経年調査に関する総合的研究」研究発表会

プロジェクト名
日本語の大規模経年調査に関する総合的研究
リーダー名
井上 史雄 (国立国語研究所 時空間変異研究系 客員教員 / 東京外国語大学 名誉教授)
開催期日
平成27年3月8日 (日) 13:00~16:00
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室1,2,3 (東京都立川市緑町10-2)
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発表概要
テーマ : 鶴岡・岡崎調査の分析と展望
司会 : 鑓水 兼貴

「第5回鶴岡調査に向けて ―新たな調査モードの開発のために―」阿部 貴人 (国立国語研究所)

鶴岡調査は,第1回~第4回調査の調査結果がまとまり,データの一般公開が実現する。今後,方言と共通語を中心とした言語変化のプロセス・メカニズムのさらなる解明が期待される。
それと同時に,次回の調査にむけた基礎研究を進める必要もある。今日,方言と共通語を使い分けることは一般的となった。しかし,方言と共通語の使い分けはバイリンガルでなくても行う。場面によって方言と共通語のどちらを使うかを見ただけでは,現代の地域社会における方言と共通語の一側面しか捉えられない。現代の地域社会における変種の張り合い関係を把握するための,新たな調査モードの開発が必須である。
本発表では,(1) 方言と共通語の使い分け / バイリンガリズムに関する概念整理を行うとともに,(2) バイリンガリズムという文脈において,地域社会における方言と共通語の張り合い関係の実態を把握するための方法論について議論する。

「岡崎における第三者敬語の位置づけ」辻 加代子 (神戸学院大学),井上 史雄 (国立国語研究所)

第三者敬語というのは,会話の場に登場する (話し手と話し相手以外の) 話題の人物への配慮を表す敬語のことである。本発表では,岡崎敬語調査データの第三者敬語に焦点をあてて分析していく。
まず,115・117~120場面に現れた敬語形式を「大分類」〈尊敬語 (謙譲語) や丁寧語を使うか〉,「中分類」〈「大分類」に聞き手配慮の表現の詳細を加えたもの〉,「尊敬語 (謙譲語) 使用形式」の3段階に分類し,場面別の使い分けの実態を明らかにする。次に,その結果をふまえて,運用面で,話し相手待遇と第三者待遇とではどのような違いがあるか,相手により,また,話題によりどのように使い分けているか,他人に向かって身内を話題にした時,どのような敬語形式を使うか,などについて考察する。

「岡崎敬語調査の荷物預け場面における機能的要素」丁 美貞 (国立国語研究所)

本発表では,国立国語研究所の経年調査研究である岡崎敬語調査データの「荷物預け」場面を用いて,第1次調査から第3次調査までの機能的要素について分析した結果を述べる。
分析は熊谷・篠崎 (2006) に基づき行った。「荷物預け」場面の第1次調査と第2次調査データは熊谷のデータをそのまま利用した。発表者は新たに第3次調査の反応文のみコミュニケーション機能と機能的要素に分類した。
「荷物預け」場面では,「きりだし」「状況説明」「対人配慮」「意向の確認」「行動の促し」「その他」の6つのコミュニケーション機能と10項目の下位分類の機能的要素に分類できた (国立国語研究所報告123) 。本発表ではコミュニケーション機能の経年変化について述べる。
今後,他の場面でもコミュニケーション機能と機能的要素の分類を行い,機能的要素にどのような経年変化があるかを分析する必要がある。

「岡崎敬語調査漢字仮名交じりデータの利用について」鑓水 兼貴 (国立国語研究所)

2014年12月1日にプロジェクトのWEBサイトにおいて,岡崎敬語調査のデータ公開を行った。データベースは,仮名表記による反応文の回答データと,回答者の生年と性別の情報からなっている。3回の調査とも共通な11場面 (12場面) における文レベルの敬語使用データによって,55年間にわたる敬語使用の変化の分析が可能である。
このデータを利用しやすくするために,プロジェクトでは,仮名表記だった元データに対して,漢字仮名交じり表記への変換作業を行い,データベースを作成した。
漢字仮名交じりデータを用いることで,語形検索や文の要素分類が容易となるだけでなく,形態素解析への適用もしやすくなる。発表では,漢字仮名交じりデータの利用法を示すほか,形態素解析結果を利用した多変量解析法による分析について述べる。

「岡崎敬語調査資料の基礎集計グラフ作成について」柳村 裕 (国立国語研究所)

岡崎敬語調査資料のグラフを作成するテンプレートを作成した。このテンプレートを使うと,岡崎資料の様々な項目に関して,基礎集計結果を表すグラフを容易に作成することができる。本発表では,このテンプレートで作成できるグラフの種類と,実際のグラフ作成方法を解説する。
このテンプレートは,任意の計数項目に関して,経年変化 (調査次や生年による差異) ,場面による差異,話者属性 (性別と学歴) による差異などを表示するグラフを作成する。任意の計数項目とは,例えば,反応文における特定の形態素の出現数や,反応文の丁寧さの段階付け,文長 (文字数) などである。このテンプレートでは,以上の複数のグラフを同時に作成し,任意の要素の経年変化パターンや話者属性による差異の概要を把握することができる。

「岡崎敬語調査パネルサンプルの生年順表示」井上 史雄 (国立国語研究所)

パネルサンプルの研究技法は確立したとは言い難い。大勢のデータが必要ではあるが,追跡調査が可能だった話者には年齢や性別の偏りがあり,平均値だけをもって論じることは危険でありうる。一方個々のケースを個別に論じるのは手間がかかるし,一般性を見失う可能性がある。この発表では一方の軸に全話者を生年月順に配置し,もう一つの軸に言語事象の数値をプロットする技法を紹介する。
岡崎の反応文の長さは,話者全体のデータできれいな成人後採用を示した。「年寄りの長話」と呼べる。一人ひとりのデータでも,生涯変化として反応文が長くなることが分かる。場面別に見ることにより,どの場面の増え方が大きいかが分かる。さらに個々の表現別に見ることにより,どの言い方がどんな人で増えたかも分かる。