「コミュニケーションのための言語と教育の研究」研究発表会

プロジェクト名
コミュニケーションのための言語と教育の研究 (略称 : コミュニケーション)
リーダー名
野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 教授)
開催期日
平成27年2月28日 (土) 13:30~17:00
開催場所
キャンパスプラザ京都 2階ホール (京都市下京区西洞院通塩小路下る東塩小路町939)
アクセス

発表概要

「日本語学習者の聴解困難点の調査方法」野田 尚史 (国立国語研究所)

日本語学習者が日本語を聞くときにどのような点が難しく,どのように意味を取り違えるのかということは,まだほとんど解明されていない。この発表では,後に続く3つの発表の導入として,日本語学習者に日本語を聞きながら意味を理解する過程を母語で話してもらう調査の方法について説明する。
あわせて,そのような調査から日本語学習者の聴解過程についてどのようなことがわかり,それが日本語教育にどのように役立つかについて概観する。

「買い物における日本語学習者の聴解困難点」末繁 美和 (北見工業大学)

中国語や韓国語,モンゴル語などを母語とする初級日本語学習者に,スーパーやコンビニ,デパートなどにおいて実際に買い物をしてもらい,レジでの店員とのやり取りにおける聴解困難点を探った。
その結果,初級日本語学習者は,提示された物や聞き取れた語彙をもとに質問を予測していることが分かった。例えば,店員がレンジを指しながら「あたためますか」と質問した際には,レンジという視覚情報と「あたため」という語彙から,「あたたかい」という既習語彙を連想し,意味を推測していた。
しかし,僅かな語彙と自身の背景知識に依存した聞き取りをしているため,自国で質問されないことを聞かれた場合には,誤った解釈をする傾向が見られた。例えば,店員が箸を提示しながら「お箸何膳おつけしますか」と聞いた際には,自国では聞かれることがない質問だったため,レジでよく聞かれる「お箸が必要かどうか」を問う質問をされたと誤解していた。

「雑談における日本語学習者の聴解困難点」中山 英治 (いわき明星大学)

ベトナム語,フランス語,フィリピン語などを母語とする留学生や定住者外国人に「日常生活で,日本人と雑談する」という状況を設定し,実際に日本人と雑談をしてもらって録画し,その映像を見せながら調査対象者の雑談の理解過程を調べた。
その結果,自国の文化や習慣をふまえた既有知識で未知の語を推測してしまうことが観察された。例えば,普段水のシャワーを浴びる習慣を持つアフリカ人が「お湯のシャワーを浴びないと,疲れが取れない。」という発話で「疲れ」という語がわからず,シャワーは体の汚れを落とすものだという生活習慣上の既有知識から,「 (お湯のシャワーを浴びないと,) 洗ってないような感じ。」と誤解した例があった。
また,前の文脈を聞いたことで,今聞いている発話を誤解することもわかった。例えば,ミャンマーの言語を学んだという前の文脈を聞いた後で「言語学ではなく歴史をやっています。」という発話を「言語だけではなく歴史のことも勉強しています。」と誤解した例があった。

「講義における日本語学習者の聴解困難点」阪上 彩子 (大阪大学)

中国語,インドネシア語,ベトナム語等を母語とする留学生に,本人が聞きたいという講義を聞いてもらい,聴解過程を調査した。その結果,次のようなことが明らかになった。
(1) 既有知識によって話の内容を反対に推測する失敗例 : たとえば,「無駄」と聞くと「要らないものだ」という自分の常識により,「無駄な動きが必要だ」という講義を,「無駄な動きは必要ない」と理解していた。
(2) 数を使用した表現によって話の構成を推測する成功例 : たとえば,専門用語が聞きとれなくても,「もう1つ」や「2つのこと」といった数を使用したまとめの表現の聞きとりにより全体の構成を理解していた。
(3) 接続詞によって話の内容を推測する成功例と失敗例 : たとえば,「要するに」という接続詞の聞きとりにより,それまで間違って理解していた話の構成を大きく修正し理解していた。反対に,「一方」「つまり」「ところが」などの接続詞が聞きとれなかったことにより,構成を間違って理解していた。