公開シンポジウム
「シラバス作成を科学にする ―日本語教育に役立つ多面的な語彙シラバスの作成―」

プロジェクト名
学習者コーパスから見た日本語習得の難易度に基づく語彙・文法シラバスの構築 (略称 : 語彙文法シラバス)
リーダー名
山内 博之 (実践女子大学 教授)
開催期日
平成27年2月22日 (日) 10:00~16:30
開催場所
国立国語研究所 2階 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

発表概要

基調講演 「語彙シラバスと文章理解」石黒 圭 (一橋大学 教授)

文章理解は内容理解であり,内容理解を支えているのは語彙です。語彙は分野ごとに偏りが見られる一方,分野が重なると共通した語彙が用いられるため,分野の偏りや重なりを反映した語彙シラバスがあれば,文章理解教育が効率的になります。しかし,語彙シラバス自体はリストにすぎず,学習者が語彙の知識を文章理解に適用する方法を知らないと,語彙シラバスを文章理解教育に生かすのは困難です。本講演では,その方法を,①語形の把握,②意味の把握,③機能の把握,の三つの観点から論じます。

パネル発表

  • 「語彙密度から見た語彙シラバス」
    佐野 大樹 (グーグル株式会社)

    語彙の“難易度”をどのように捉えるかは,語彙シラバスを作成するうえで重要な項目です。多くの場合,“難易度”は専門家の経験や語彙の頻度などにもとづいて捉えられますが,本講演ではテクストの書き言葉らしさ・話し言葉らしさをあらわす指標「語彙密度」を用いて捉えます。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用いてある語が使用されるテキストの語彙密度の平均値を求めることで,語彙のどのような傾向が見えてくるか紹介していきます。

  • 「外国につながる子どもたちのための語彙シラバス」
    中石 ゆうこ (広島市立大学 非常勤講師),建石 始 (神戸女学院大学 准教授)

    「外国につながる」児童・生徒は,学校教育の現場において教科の学習だけでなく日本語の学習も同時に必要であることが多く,教科の内容以外にもつまずきが起こりやすいと考えられます。そのつまずきへの対処方法の一つとして,現場の教師が指導の際に配慮すべき語彙の指針を示すために,外国人児童・生徒にとって指導が必要となる語彙リストの作成を我々は目指しています。今回の発表ではその基礎的な資料の一つとして,ある小学校に在籍する3年生児童の指導記録および BCCWJ の教科書コーパスを用いて,実際に指導が必要であった語とそれらの語に共通する特徴を明らかにします。

  • 「子どもを持つ外国人のための語彙シラバス」
    森 篤嗣 (帝塚山大学 准教授)

    本研究では,保育園と保護者の間で交わされる連絡帳,小学校における学校配布物という2種類のデータを分析します。この2種類のデータに対し, BCCWJ を参照コーパスとして比較することにより,連絡帳と学校配布物の語彙の特徴を明らかにして,子どもを持つ外国人にとってどのような語彙シラバスが必要であるかについて,具体的な提案をおこないます。

  • 「日本語学習者から見た語彙シラバス」
    劉 志偉 (首都大学東京 助教)

    外国人学習者,とりわけ中国語を母語とする日本語学習者にとってカタカナ語の学習が難しいということは,日本語教育関係者ならば誰しも が持っている漠然とした共通認識でしょう。本発表は,音韻論や音声学といった論理的な枠にとらわれず,発表者自らが記し続けてきた十数年分の学習メモを手 がかりに,上級以上の学習者でも「耳で聞いたカタカナ語は日本語母語話者のように再現できない」という現象に焦点を当て,その理由を探ります。