「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」研究発表会
- プロジェクト名
- 消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究 (略称 : 危機方言)
- リーダー名
- 木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系 教授)
- 共催
- 科研費 基盤研究 (A) 「消滅危機言語としての琉球諸語・八丈語の文法記述に関する基礎的研究」
狩俣 繁久 (琉球大学 法文学部 教授) - 開催期日
- 平成26年9月13日 (土) 14:00~18:00
平成26年9月14日 (日) 9:30~16:00 - 開催場所
- 国立国語研究所 2階 講堂,多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
発表概要
テーマ「形容詞の記述と問題点」
平成26年9月13日 (土) 14:00~18:00
「八丈語の形容詞について」金田 章宏
八丈方言には万葉集東歌や上代中央語,中古語などにみられる古風な文法現象のいくつかがたもたれており,このうち形容詞の特徴について概観する。形容詞においては,東歌にみられる~e連体形,語幹のフカ,フト,ナガなどの自立的用法 ~ミ名詞形の中立的な用法などの古風な現象以外に,動詞のアスペクト形式をかりたアクチュアルな用法など,あらたに生じた文法現象もみられる。
「形容詞と名詞のあいだ ―琉球語はいかに形容詞を発達させたか―」かりまた しげひさ
沖縄名護市幸喜方言の形容詞には,日本語イ形容詞と語幹を同じくする第一形容詞のほかに,日本語ナ形容詞と同じく語尾 na を後接させた連体形式を持つナ形容詞があるが,日本語との接触が少なく漢語由来のナ形容詞を発達させていない。特性や状態を表す単語の連体形式と述語形式の意味,機能,形態を検討し,隣接する名詞述語と対比しながら,新しい形容詞をどのように作り出しているかを論じる。
「驚異の万能語根 ―宮古諸方言における形容詞語根の特徴―」下地 理則
日琉諸方言を広く見渡すと,形容詞は専ら用言的であるか,語根の種類によって用言的形容詞になるか体言的形容詞になるかが決まっている方言が多い。一方,宮古諸方言では,任意の語根から,用言的 / 体言的な形容詞が自由に形成でき,さらに語根の重複や名詞語根との結合もかなり自由にできる。本発表では,形容詞語根が関わる極めて複雑な語形成の様相と,諸形式の職能分担,品詞分類上の問題点について議論する。
「形容詞の複合をめぐって ―古典語・宮古語の対照―」衣畑 智秀
これまで形容詞は,動詞や名詞との形態的差違が問題となってきた。しかし,形容詞が名詞や動詞から形態的に区別されたとしても,機能的な違いがなければ,何のために形態的な差違が存在するのだろうか。本発表では,古代語の形容詞が名詞や動詞と複合することを足がかりに,形容詞の形態的独自性と他品詞との複合可能性の関係について,考察を行いたい。
「日本語の形容詞研究が目指すもの」八亀 裕美
文法研究においては,動詞研究が中心的な位置を占めているが,形容詞についても徐々に記述が進んできている。日本語の標準語の形容詞研究,さらに諸方言の形容詞研究でどのようなことが報告されてきているのかを概観する。また,言語類型論などで形容詞についてどのような議論があり,日本語の形容詞研究はどのような貢献ができるのか,という点についても考えてみたい。
シンポジウム形式での全体討論
平成26年9月14日 (日) 9:30~16:00
「喜界島上嘉鉄方言の形容詞について」白田 理人
喜界島上嘉鉄方言の形容詞の特徴として,形態音韻論,形態論,統語論にわたる記述を行い,名詞・動詞との相違について論じる。形容詞は同じ語根から複数の形態的手段によって名詞修飾及び述部の機能を果たす事ができ (eg. ači+itaa / ači-ka ita / ačisan ita 「厚い板」 mai-ku / mai-sa 「大きい」) ,本発表ではその機能上の差異も考察対象とする。
「津堅方言と大山方言における形容詞の形態および機能の比較」又吉 里美
沖縄北部方言の属する津堅方言と沖縄中南部方言に属する大山方言の形容詞については,たとえば,ama-ku-naN (「甘くない」津堅方言) ,ama-sa-neeN / ama-ko-neeN (「甘くない」大山方言) のような違いが見られる。沖縄北部方言および沖縄中南部方言の特徴について,形態および機能を記述しながら比較検討していく。
「沖縄語首里方言の授受動詞」當山 奈那
沖縄島の首里方言における授受動詞について分析・記述を行った結果を報告する。文の通達的なタイプや,人称性まで捉え,様々な観点から例をみていくことによって,それぞれの授受動詞のあらわれる条件を取り出す。このことによって,他の琉球諸語や日本語諸方言の授受研究にも役立つような分析・記述を目指す。
「八重山石垣方言の敬語の仕組み」荻野 千砂子
石垣方言の敬語の調査をしていると,「敬語は難しい。自分を敬う人がいる。」という話を聞く。この間違いは共通語の敬語システムからは考えにくい。そこで,石垣宮良方言を中心に,石垣方言での「自分敬い」を引き起こす敬語文法について記述する。また,このシステムが古典語の敬語の文法化と類似する可能性も指摘する。
「北琉球沖縄語久高島方言の音韻スケッチ」新永 悠人,青井 隼人
通時的音変化,複合語における連濁,音素配列などをもとに,久高島方言の音素体系のスケッチを試みる。その際,先行研究で頻繁に指摘されている特別な子音 (舌端と歯茎を用いた特別な阻害音) の解釈が重要な問題となることを示す。