「日本語レキシコンの音韻特性」「消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究」研究発表会

【重要】 3月11日に起きた地震の影響で,今回の研究発表会は中止いたします。

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系)

消滅危機方言の調査・保存のための総合的研究 (略称 : 危機方言)
木部 暢子 (国立国語研究所 時空間変異研究系)
開催期日
平成23年3月20日 (日) 9:30~12:30
開催場所
日本女子大学 目白キャンパス 新泉山館 2階
交通アクセス

発表概要

9:30~11:00「奄美喜界島方言のアリ・リ系のかたちをめぐって」まつもと ひろたけ (国立国語研究所 プロジェクト共同研究員 「危機言語」)

動詞の時間表現をめぐる語形対立の中心にスル-シタの対立がある。対立をになうシタ形は古代語のタリ形にさかのぼる。標準語とともに大多数の日本語諸方言が,このタリ系列をつかっている。琉球方言に属する奄美喜界島方言も例外ではない。ところが,喜界島でも,その上嘉鉄方言をみると,よそジマでヌダン (のんだ) ,フタン (ふった) ,シャン (した) とタリ系でいうところに,ヌメン,フレン,センのようなかたちがあらわれる。これらをタリ系とみることはむずかしい。
ヌメン以下のかたちの出発点をかんがえると,タリ系列につきまとうt音とそのバリアントがでてこないこと,それでいながら意味・用法のうえでタリ系列のかたちとかさなることから,古代語ですでにタリ形式におされていたといわれるリ (アリ) 形式にたどりつくことができそうである。
この種のリ系のかたちは,現在の奄美・沖縄本島ほかの北琉球方言にはみとめられないが,宮古・八重山などの南琉球方言に存在する。だとすれば,上嘉鉄方言にリ系のかたちが存在することを,周圏分布のなごりととらえる可能性もみえてくる。こうなると,琉球方言全域に,かつてはリ系のかたちがあったこともかんがえられる。さきにふれたタリ形にくらべてのリ形のふるさにてらしても,これは琉球方言の古層のあらわれかたのひとつだろう。
また,おなじリ系の時間表現が,八丈島方言にもあることは,日本語の古層をかんがえるにあたって考慮する必要がある。
上嘉鉄方言のリ系のかたちには,ヌメンのほかにヌメーのようなかたちもある。このことについても検討しなくてはならない。また,古代語とちがって,ナゲン (なげた) ,シメー (しめた) など,二段活用タイプの動詞からもつくられている。この種の異同の詳細は今後確認したい。

11:00~12:30「上海語「語声調」におけるピッチ下降現象」髙橋 康徳 (東京外国語大学 大学院 / 日本学術振興会 特別研究員)

本研究は上海語「語声調」で起きるピッチ下降現象を音響音声学的に記述し,その音韻表示をどのように表すことができるのかを考察する。第1 音節の声調が語全体のピッチを決定する上海語の「語声調」現象では,多くのパタンで第3音節以降のピッチが下降する。従来の研究は,このピッチ下降に3 つの解釈 (【1】自然下降(declination),【2】ピッチターゲットの指定,【3】補間(interpolation)) を提案しているが,ピッチ下降に関する客観的なデータはほとんど記述されていないため,どの解釈が妥当であるかを判断することは困難である。
そこで,本研究は3 音節語および4 音節語の「語声調」を音響音声学的に記述し,上記のどの解釈が妥当であるかを考察する。ピッチの下降スピードを計測した結果,3 音節語の方が4 音節語よりも下降スピードが速く,4 音節語では第3 音節に相当する部分が第4 音節に相当する部分よりも下降スピードが速かった。この結果は,ピッチ下降部の各音節にピッチターゲットが指定されるという解釈を支持する。