「日本語レキシコンの音韻特性」研究発表会

プロジェクト名
日本語レキシコンの音韻特性 (略称 : 語彙の音韻特性)
リーダー名
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・構造研究系 教授)
開催期日
平成22年10月3日 (日) 13:00~18:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室

発表概要

「韓国語諸方言におけるアクセント型の現れとアクセントの単位に関する考察」李 連珠 (北海道大学)

本発表では,先ず韓国語の諸方言におけるアクセント型の特質に焦点をおき,それぞれのアクセント型の音声的な特徴の記述及び,音韻論的解釈を明らかにすることを目的とする。例えば,慶尚道 (キョンサンド) 方言において,有核アクセント型 (下げ核のあるアクセント型) の場合は文節がアクセントの置かれる単位となっている (一部語アクセントでない方言を除いて) 。一方,無核アクセント型は,文節のレベルを超えて文にまでアクセントの置かれる単位が拡大される特徴を持っている。本発表では,主に無核アクセント型において起こるような文節レベルを超えた場合のアクセントの現れ方に焦点を絞り,現代韓国語諸方言におけるアクセントの特質として捉えることを試みる。最後に,表面上文レベルでの音調が記されている中期朝鮮語のアクセント記述は,どこまでがそれの単位になっているのかを,現代諸方言との対照で再考察する。

「甑島方言のアクセント ―High Tone Deletionを中心に」窪薗 晴夫 (国立国語研究所)

鹿児島県の甑島方言は鹿児島方言と同じく二型アクセント体系 (A型とB型の区別) を有しているが,鹿児島方言とはいくつか大きな違いを示す。その一つは両方のアクセント型が重起伏を示し,A型は HLHL,B型は HLH の基本メロディーを有している (H = high tone, L = low tone) 。また鹿児島方言語とは違い,音節ではなくモーラを主体とする方言とされている。さらに,文レベルでは文末を除いて二つ目のH toneが消去され,1文節が1つの起伏しか示さない。本発表では,このような基本的な特徴を説明した上で,(i) 実際には音節とモーラが混在しており,基本メロディーの最初の HL は音節を単位として,残りのメロディー (A型の語末 HL と B型の語末L)はモーラ単位で付与されていること,(ii) 文レベルの H tone deletion が英語などの言語に見られる Rhythm Rule (thirTEEN MEN ・ THIRteen MEN) と同じようにアクセント衝突を避ける現象として分析できること,(iii) High tone deletion の規則が歴史的に語彙 (文節) レベルのアクセント変化を条件として発生していること等を主張する。