「多文化共生社会における日本語教育研究」研究発表会

プロジェクト名,リーダー名
多文化共生社会における日本語教育研究
迫田 久美子 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 客員教授)
サブプロジェクト名,リーダー名
学習者の言語環境と日本語の習得過程に関する研究
迫田 久美子 (国立国語研究所 日本語教育研究・情報センター 客員教授)
開催期日
平成22年9月25日 (土) 10:30~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 講堂 (予定)

全体テーマ「日本語学習者の多様性 ―第二言語習得の関連領域から学ぶ―」 発表概要

「第一言語の動詞の発達 ―実態と説明理論,今後の方向性―」岩立 志津夫 (日本女子大学 教授)

岩立はこれまで,日本語を第一言語として獲得する子ども達の言語発達を,動詞の文法を中心にして研究してきた。主な研究は,縦断的な発話資料の分析研究,横断的な実験的研究,自閉症児の言語発達支援研究などである。そして,これらの研究結果に基づいて,「ローカル・ルールからグローバル・ルール」,「質的発達に基づく規則の回路」という独自の主張を展開している。「ローカル・ルールからグローバル・ルール」説は,一見Tomasello,M.の「動詞-島仮説」 (verb Island hypothesis) に似ているが,出所,説明理論,研究の方向性のいずれについても両者は大きく異なる。本講演では,動詞の発達を中心にして具体的な研究例を紹介しながら,上に述べた説明理論と今後の発展の方向性について述べる。

「言語接触と日本語習得」ダニエル・ロング (首都大学東京 准教授)

「言語接触」の研究と「日本語習得」の研究の間には,これまでかなり大きな距離があった。言語接触の研究は,(1) 集団レベルの言語使用,そして(2)接触の結果としての言語態に注目してきた。19世紀の横浜ピジン日本語の研究 (シュテファン・カイザーなど) がその例である。一方,日本語習得の研究は,(1) 個人レベルの言語使用に注目しながら,(2) 中間言語の形成過程を追究する研究 (迫田久美子など) が多かった。発表者はこの二つの流れに学びながら,両者の接点を模索している。本発表では,小笠原の欧米系島民や石垣島の台湾系島民といった国内の外国系言語コミュニティの言語状況,喜界島におけるトン普通語の「第1世代」の言語,マリアナ諸島の日本語使用者のデータを例に取り上げて,コミュニティレベルの日本語習得について考察する。

「日本手話を母語とする聴覚障害児の日本語習得」阿部 敬信 (別府大学短期大学部 准教授)

「日本手話 (Japanese Sign Language) は自然言語のひとつであり,日本語とは語彙も文法も異なる独自の言語」 (市田2003) である。自然言語であるが故に,母語話者 (native signer) の集団も存在する。ここでは,日本手話を母語とする聴覚障害児を「ろう児」ということにする。今までろう児の言語習得は,聴覚に欠損があり,音声言語の習得が困難なことから,書き言葉の習得に問題が起こるという障害児教育の文脈から語られることが多かった。しかし,現実の社会においてろう児は,日本手話と日本語 (主として書き言葉) のバイリンガルとして生きているのである。発表では,聴覚に「障害」のある子どもの言語習得という視点から,日本手話を母語とする子どもの第二言語習得であるという視点の転換を図り,ろう児の言語教育における日本語教育実践の適用について考察する。