研究報告会抄

さる3月9日(士曜日)午前9時30分から午後6時まで,国立国語研究所5階ホールにお いて,第3回研究報告会が催された。
当日は,22名の研究担当者による研究報告が,午前一部,午後二部の三部構成でなされ, 熱心な質疑応答も加えられた。最後に水谷修研究リーダーより総括発言があり,閉会した。 以下,その摸様を各部の司会担当者に簡略にリボートしていただく。

[午前の部]
研究班4の発表では,はじめに甲斐睦郎氏から研究班4の4チームの総括的な話があり,「 情報発信のための言語資源の整備に関する研究」が順調に進んでいるとの報告があった。甲 斐雄一郎氏からは日本語教育に含めた広義の国語教育の今後の望ましい姿についての議論が あった。斎藤秀紀氏の発表では,わが国特有の古典,漢籍を電子化する処理に永続性のある 情報交換用文字コード体系を確立するために,現状のJIS X0208やISO/IEC10646-1の問題点を分析し,4バイトコードを構造化する ことでこれらの問題を改善できることが示された。木村睦子氏から,明治28年からが昭和 3年まで33年間にわたって刊行された月刊総合雑誌「太陽」のコーバス作成にかかわる苦 労話等が紹介された。次に,研究班1の発表では佐藤和之氏が日本の国連常任理事国入り等 を含め,アメリカや中国等の諸国からみた日本への期待と果たすべき役割などについてさま ざまな観点からの分析結果の報告があった。ダニエル・ロング氏は英語の中に日本語(主に 単語)がもちいられる割合が最近徐々に増えてきたことを指摘した。栗原信征氏からは外国 の新聞,雑誌などにもちいられる日本語の使用状況をつぶさに分析した結果の報告があった 。(萩田紀博)

[午後の部]
午後の第一部は,文字言語研究チームの発表が8件行われた。内容を大別すると,語の主観 的表記頻度に関する心理学的研究(関西学院大学・賀集寛氏ほか),日本語諸特性の基準表 の作成(横浜国立大学・福田幸男氏ほか),文字の自動認識に関する研究(NTT基礎研究 所・萩田紀博氏),日本語に関する心理言語学的研究の文献目録データベースの作成(ブリ ティッシュ・コロンビア大学・ジョセフ・ケス氏ほか)の4つに分けられる。
質疑においては,内容が日本語研究者にとってなじみがなかったせいか,主として,国語学 との関連を求める質問が多かった。例えば,認知研究のための漢字頻度基準表の作成(名古 屋市立大学・野崎浩成氏ほか)に関して,かつて国語研究所で行われた新聞の漢字調査との 比較が妥当かどうか,また主観的表記頻度という術語が日本語学の研究者にはややわかりに くい点があるなどの意見が会場からよせられた。 (山崎誠)
午後の第二部では,研究班3の,主に音声言語研究チームを中心に3つの発表があり,計算 機実験研究チームから一つの発表,計4つの発表があった。まず,音声言語研究チームの鮎 澤孝子氏から,チームの研究の全体についての話があり,特に「東京語アクセントの聞き取 りテスト」による研究成果の一端が報告された。続く荒井雅子氏の発表は,同テストに対す るアメリカ人学習者の回答の分析をしたものであった。また,これに続く大木充氏の報告は ,フランス人がフランス語で話している時のジェスチャーに注目して,ジェスチャーとその 談話上の機能の関係を分析したものであった。最後の発表者は計算機実験研究チームの中野 洋氏で,中野氏は「分類語彙表形式による語彙分類表」が現段階でどのように作業が進んで いるかについての報告をした。
大木氏の発表について会場から,機能の特定をどのようにするのか,主観的なデータの切り 方に陥らないのか,といった質問があった.。
午後の第三部は多言語状況と日本語という大きなテーマで括られた研究班2の発表を,平野 健―郎氏を最初の報告者として,神野志隆光氏,茂呂雄二氏の三名の報告があった。平野氏 が研究班2の全体について述べ,神野志氏は「日本語」の成立というタイトルで,『更新を 繰り返す日本語」というキーワードで報告された。茂呂氏は,コミュニティと日本語学習と いうタイトルで,新たな通信メディアの導入によって国内の日本人同士のコミュニケーショ ンがどのように変化するかという研究と,幼児教育の現場における多言語化の研究について 報告した。茂呂氏の報告に対して乎野氏からつっこんだ質問がなされた。(古川ちかし)


[総括]
1)研究分野が,自然科学との関わり以外のほぽ全域にわたっており喜ばしい。
2)全体に一歩進んだ進捗状況と見受けられる。
3)今後は研究内容の具体化,目標の明確化が望まれる。プロジェクトの様々な欲が拡散せ ず,焦点を絞る方向に進むことを期待している。つまり,調査研究チームによる調査の実地 展開や,その他の確実な成果を上手に結実させたい。例えば,4班の開発研究の成果とか, 3班の当初の予想以上の提言への結ぴつきが望まれる。
4)きたる9月2l日(土)の国際シンボジウムの前後に発表会などを企画されたい。また ,来年3月には発表をどんな風にアレンジするか,お考えいただきたい。ちなみに本日の総 括班会議の席上での発言に,担当者全員の発表という提案もあった。
5)社会に貢献できる研究,地球時代の学術的事実の解明と,そのための方法の開発,とい う目標を念頭に,本研究の今後一層発展することを切望する。(山田貞雄)


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