「言語事象を中心とする我が国をとりまく文化摩擦の研究」



研究実施計画の概要
本研究班の構成は,大きく二つに分かれている。平野チーム(東京大学駒場グループ)は,日本語の国際性を国際関係の歴史と国際社会論の視点から考察している。西原チーム(国立国語研究所グループ)は,日本国内の地域社会において多言語・異文化接触状況に置かれている日本語の国際化現象の解明を続けている。当面は平野チームと西原チームに別れ,理論的研究と社会言語学的研究の両側面から研究を進める。




班代表者の平野は国際関係論の理論に基づき言語文化摩擦の概念,国際交流論の知見などを適用して研究の総括を行う。山本は国際社会学の視点に立ち,社会学の方法論を援用しつつ文化摩擦の社会的次元について理論的考察を行う。神野志は国語・国文学の歴史を国際的な視点から,個人的次元における言語摩擦の性質を理論的に考察する。
さらに,「多言語状況と日本語」研究会を合同で形成して,緊密に連携しつつ研究活動を行っている。



言語学的視野から,言語運用の実態調査を通して,日本語をめぐる国際化現象を観察・研究しようとしている。本研究では問題追究の有効な糸口として言語行動や非言語行動を含む言語事象を取り上げ,多面的・実証的な分析を行う。
西原は社会言語学・対照言語学の観点から日本語母語話者と非母語話者との言語行動的接触における摩擦の実態を,国内外で調査分析する。杉戸は日本語学・社会言語学の視点から人間関係を捉え,待遇表現を中心に国内における日本人および外国人の言語行動の特徴を記述する。古川は,認知心理学・日本語教育学の視点から,日本国内各地域の言語接触における言語的多数派・少数派間の相互変化および相互学習過程を調査分析する。共通の関心事としては,以下のような視点があげられる。

(1) ある特定の文脈・場面における言語・非言語行動にはどのようなものがあるか。
(2) 母語・居住地域・性差・年齢差などの言語文化的背景の差が,当該の場面における言語・非言語行動に関してどのような規範意識の差を生むのか。
(3) 第二言語との言語行動的接触時,あるいは同一言語内の異質な話者との言語行動的接触において,どのような調整機能が働くのか,それがどのような行動へと発展するのか。
(4) 言語接触の場面に働く行動変数は何か
(5) 言語行動に関する規範意識の個別性と普遍性は何か,

上述のグループ代表のもと,具体的には,研究協力者とともに以下の調査研究を行なう。

国内調査(1)
在日日本語非母語話者を対象として,ビデオによる視聴覚刺激によって誘発される対日本人コミュニケーション問題の把握を行う。対象とするのは英・仏・朝・ブラジルポルトガル・ベトナム語母語話者。

国内調査(2)
日本国内各地域の日本人を対象として,調査(1) と同様のコミュニケーション場面における言語行動様式・言語規範意識の地域的・年齢的・文脈的差異の把握を行う。対象とする地域は京都・熊本・仙台・弘前・東京等。

国内調査(3)
日本国内各地域の新来外国人と日本人が形成するネットワークのさまざまなあり方を参与観察し,その発展を記録する。対象とする地域は,つくば・川口等。

国外調査
海外に在住する日本語母語話者を対象として,日本人と在住する地域の人々とのコミュニケーション上の問題を,調査(1) と同様の場面を使用して調査する。対象とする地域は米・仏・韓国・ブラジル・ベトナム。




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