国立国語研究所は終戦間もない昭和23(1948)年に設立されました。設立直後の国立国語研究所は,福島県白河市や山形県鶴岡市をフィールドとして,方言が東京のことばに近づく現象(いわゆる全国共通語化)に注目した言語調査を実施しました。
この調査では,東京のことばを,日本全国のどこでも通じることばと位置付けます。国立国語研究所は,この「全国で共通して」通じることばを「全国共通語」と名付けました。現在では,世間一般でも「全国」を省略した「共通語」や「共通語化」という呼び名が浸透しています。
しかし,日本には全国共通語とは別の「共通語」もあります。「全国で共通する」という特性に対して,「ある特定の地方で共通する」という特徴を持ったことばがあるのです。これを「地方共通語」や「地域共通語」と呼んでいます。近畿地方の広範囲で用いられる「関西共通語」などがそれにあたります。
地方共通語は,典型的には,異なった方言(変種)が接触することで形成されます。したがって,移住によって形成された地域社会では地方共通語が形成される可能性が高くなります。国立国語研究所は,地域共通語が成立していくプロセス・メカニズムを解明するために,移住によって形成された地域社会である北海道を対象とした調査を実施しました。昭和33年度~35年度にかけて実施した「北海道調査」です。全国の各地から北海道に移住した1世・2世・3世を対象とした「1世・2世・3世調査」を中心に,北海道共通語の成立過程の解明を目指しました。第2世ではまだ第1世の出身地の方言の影響が残っていましたが,第3世になると,その影響がほとんど見られなくなります。第1世の出身地がどこであっても,第3世は同じようなことばを話していたのです。世代を経て「北海道共通語」が形成されていくプロセスを観察し,そのメカニズムを解明することができました。
全国共通語化と地方共通語化は,異なった方向に向かうものとは限りません。当時の北海道共通語は,その成立にあたって全国共通語に近づくという方向性を持っていました。しかし,これは「全国共通語の影響を受けたために,全国共通語に近づいた」ということではありません。ここから,全国共通語化と地方共通語化には共通するメカニズムが内在する可能性が見えてきます。
このメカニズムを解明し,2つの“共通語化”がどのような関係にあるのかを解き明かすために,昭和33年度~35年度の調査では,全国共通語化を焦点化した調査も併せて実施しました。富良野町(現:富良野市)における「富良野調査」です。
さらに,1回目の調査から四半世紀を経た昭和61年度~63年度,国立国語研究所は,富良野市において再度調査を実施しています。1回目の調査と同様に,全国共通語化と地方共通語化のプロセスやメカニズムを明らかにすることが目的です。
また,2回目の調査では,北海道内の都市部と農村部を比較するという社会言語学的な観点を盛り込むことで,北海道民の言語生活の実態をより立体的に把握することも目指しました。そこで,農村部の富良野市に加えて,都市部の札幌市も調査地点とし,それぞれの調査地点のインフォーマントをランダムサンプリングによって選びました。
私たちの生活では,様々な“ことば”が常に接触しています。日本語と英語のような言語同士の接触もあれば,テレビから流れてくる東京のことばと方言の接触もあります。また,同じ県や市で生まれ育った人々の間でも,年齢や性,職業や生活環境等によって使っている“ことば”は違っていて,それらが常に接触を続けています。その接触によって“ことば”は変化していきます。“ことば”の接触によって変化し続ける“ことば”の本質に迫る調査,それが北海道調査です。
北海道移住者第1世から第2世,さらに第2世から第3世になるにしたがって共通語化が進むことが分かりました(「1世・2世・3世調査」を参照)。では,同じ世代にあっても年齢が違えば共通語化の程度が違うのか,違うとすれば,年齢の差と世代の差のどちらが共通語化の要因として強く働くものであるのかを知るために,昭和33(1958)年に富良野町(現:富良野市)で実施した調査(以下,第一次富良野調査)です。この調査は四半世紀後の第二次調査でも引き継がれました。
さらに第二次調査では,農村部と都市部の比較という社会言語学的な観点も盛り込み,上記とほぼ同様の調査を札幌市でも実施しました。富良野市を農村型社会,札幌市を都市型社会と位置付けたのです。昭和61(1986)年に富良野での2回目の調査(以下,第二次富良野調査)を実施し,昭和62(1987)年に札幌市での調査(以下,札幌調査)を実施しました。
第一次富良野調査では,サンプリングは実施しませんでした。図1のように,アンケート式の調査にご協力いただいたインフォーマントから選抜し,200名に面接調査を実施しました。その200名に対して,第二次調査では基本的に同じ質問・同じ方法で再度調査を実施しました。このように,同じインフォーマントに一定の間隔を置いて,同じ質問・方法で実施する調査をパネル調査と言います。富良野調査では106名のインフォーマントの約25年間のことばの変化を見つめることができます。
一方,第二次富良野調査・札幌調査では,ランダムサンプリングによってインフォーマントを選びました。それぞれの市民の代表者を選んで,その市の言語生活の実態を推定するためです。第二次富良野調査は,図2のように,住民基本台帳から400名を選び,299名のインフォーマントにご協力いただきました。回収率は約74%です。札幌調査では,図3のように,エリア(町)単位のサンプリングで500名を選び,351名のインフォーマントにご協力いただきました。回収率は約70%です。
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広く北海道各地を調査して,北海道の言語の地方的な差異をつかむための調査です。従来指摘された「浜ことば」と「内陸のことば」の対立が第3世にも反映しているか,その境界線はどのあたりなのかを知ろうとしました。全道にわたる40高校と,比較のために東北地方の6高校を対象としました。新しく北海道に生まれたと考えられる表現もかなり指摘できること,全体として共通語化の方向に向かいながらも無アクセント化といった全国共通語から離れていく現象も指摘することができました。
この調査は,第二次調査でも目的・調査項目に関してほぼそのまま継続して実施しました。第一次調査で調査対象とした40の高校に加えて,人口集中の顕著な大都市(札幌・旭川・函館)の高校12校を加えました。また,第一次調査では個別面接法で調査を行いましたが,第二次調査では回答者自記式のアンケート法を用い,調査項目も若干の追加をしました。
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高校調査の対象高校所在地点
分布の型は変わらず,量が変化したタイプ
分布の型も量も変化したタイプ
分布が縮小したタイプ
分布が拡大したタイプ
北海道を代表する地点(美唄市・奈井江町,池田町,倶知安町,永山町(現:旭川市))で,移住第1世・第2世・第3世の,原則として男がそろい,かつ第3世が15歳以上であるような家族を探し,世代による変化を言語の各面から記述した調査です。三つの世代の間で,言語のどの面が変わりやすく,どの面が変わりにくいか,変わるとすればどの世代とどの世代との間かなどを明らかにし,いわゆる「北海道共通語」がどのようにして形成されつつあるかを調べました。
調査の結果,第2世ではまだ第1世の出身地の影響が残っていますが,第3世になると,その影響はほとんどなくなり,第1世の出身地がどこであろうと,どの第3世も同じようなことばを話していました。このような北海道第3世に共通のことばは「北海道共通語」と呼べるものであることを明らかにしました。
数地点だけの調査から得られた「1世・2世・3世調査」の結果を検証するため,各地方からの移住者が混在し,第3世の数も多い都会において,その第3世の言語状況を把握する調査です。札幌市,帯広市,釧路市を対象地域としました。
都市部の第3世を中心として見た北海道のことばは,けっして単一なものではなく,地域差が相当認められることが分かりました。まだ同じ世代であっても,年齢の差によって言語の状態,あるいは共通語化の程度が異なる様相を捉えました。
様々な土地からの移住者の混住地での調査に対して,集団移住により形成された地域社会では,特に第3世の言語状況はどのようなものであるかを知るための調査です。富良野町(現:富良野市),新十津川町,豊頃村,浦臼村を対象としました。
調査の結果,移住の形態が集団的であるか混住的であるかによって共通語化も相当違っていることが分かりました。また同じ混住であっても,地域によって相当の差があり,北海道方言が単一でないことが明らかとなりました。
「1世・2世・3世調査」「3世調査」「第一次富良野調査」「吉野・浦臼・豊頃調査」は,複数の調査員によって調査が実施されました。その調査結果に調査員の個人的なかたより(例えば,方言音声の聴き取りの違い)がどの程度含まれているのかを知るための調査です。札幌市を対象として実施しました。そして,調査員の個人差は確かにあるものの,結果に強い影響を与えるほどのものでないことが分かりました。
第二次富良野調査のパネル調査では,アクセントに関する項目を調査することができませんでした。そこで,それを補うことを目的として,老・中・若の3世代のそろった4家庭,総計19名を対象として,アクセントの共通語化に関わる事例的な面接調査を実施しました。
都市型社会の住民の1つの生活形態としての単身生活者に焦点をしぼった,語彙項目および言語生活項目についてのアンケート調査です。
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