「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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46.合併症(がっぺいしょう)

(類型B-(3))混同を避けて明確に説明する

[関連] 糖尿病(とうにょうびょう)(類型B) 動脈硬化(どうみゃくこうか)(類型B)
 脳梗塞(のうこうそく)(類型B) 腸閉塞(ちょうへいそく)(類型B)
 併発症(へいはつしょう)(類型B) 手術併発症(しゅじゅつへいはつしょう)(類型B)
 検査併発症(けんさへいはつしょう)(類型B) 偶発症(ぐうはつしょう)(類型A)
 続発症(ぞくはつしょう)(類型B) インフォームドコンセント(類型C)

 「合併症」という言葉は,意味が複雑で分かりにくく,患者に伝える際に混乱が起こりがちです。分かりやすい伝え方を工夫するには,「合併症」を二つの意味に区別し,別々の対応を行うのが適切です。①病気の合併症の場合は,その意味を明確に説明する工夫が必要です。一方,②手術や検査などの合併症の場合は,①の場合と区別し,「併発症」や「手術併発症」「検査併発症」などの用語を使った上で,その意味を明確にすることが考えられます。


① 病気の合併症の場合

まずこれだけは

ある病気が原因となって起こる別の病気

少し詳しく

 「合併症とは,ある病気が原因となって起こる別の病気です。例えば,糖尿病(→40)の場合,動脈硬化(→41)脳梗塞(こうそく)(→41.動脈硬化[関連語])などの病気が起こることがあります」

時間をかけてじっくりと

 「合併症とは,ある病気が原因となって起こる別の病気です。例えば,糖尿病は血液中のブドウ糖の濃さが必要以上に高くなる病気ですが,この病気のために血管が弱ってきます。血管が弱ると,動脈硬化が起き,さらに脳梗塞(こうそく)などの病気が起こることがあります」


② 手術や検査などの合併症の場合
     合併症  →  併発症 または 手術併発症,検査併発症

まずこれだけは

手術や検査などの後,それらがもとになって起こることがある病気

少し詳しく

 「手術や検査などの後,それらがもとになって起こることがある病気です。例えば,消化器の手術の後に腸が詰まって腸閉塞(へいそく)(→1.イレウス)が起こることがあります」

時間をかけてじっくりと

 「手術や検査などの後,それらがもとになって起こることがある病気です。例えば消化器の手術をすると,腸の働きがにぶって腸がスムーズに動かなくなる場合があります。そのために腸が詰まって腸閉塞(へいそく)が起こることがあります。これは必ず起こるわけではありませんが,どんな手術でも起こる可能性があります」

こんな誤解がある
  1. ①の病気が原因となって起こる別の病気の意味の「合併症」を,何かの病気と一緒に必ず起こる病気だと誤解する人が多い(28.8%)。また,偶然に起こる病気であると誤解している人も多い(31.1%)。
  2. ②の手術や検査などに引き続いて起こる病気を,患者や家族は,医療ミスや医療事故だと考える誤解がある(19.1%)。どんなに注意深く手術や検査を行っても,起こることを防げないものであるが,このことが理解してもらえないために,訴訟などにつながる場合もある。
  3. ①の病気が原因となって起こる別の病気と,②の手術や検査などに引き続いて起こる病気とを,「合併症」という同じ言葉で表すことは,患者にとっては分かりにくく,混乱の原因にもなっている。
混同を避ける言葉遣いのポイント
  1. 「合併症」という言葉の認知率は非常に高い(97.6%)。ところが,①②いずれの意味も理解率は極めて低く(①:54.0%,②:18.5%),言葉は知られていても意味が理解されていないという点で,この言葉を使っても正しく伝わらない危険性が高い。正しく理解されない原因には,日常語「合併」と医療用語「合併症」とで意味のずれが大きいこと,医療用語の「合併症」が二つの意味を同じ言葉で表していること,の二点がある。それぞれについて混同を避ける言葉遣いの工夫が求められる。
  2. 日常語の「合併」は,「市町村合併」や「企業合併」などでなじみのある言葉であるが,その意味は「別々のものが一つになること」である。この日常語の語感からは,医療用語「合併症」の持つ,①「ある病気が原因となって起こる別の病気」の意味も想起しにくく,分かりにくく感じる人もいる。①の意味で「合併症」を使う場合も,[まずこれだけは]に示した表現などを言い添える工夫を行うことが望まれる。
  3. 「合併症」という言葉は,訴訟につながりかねない重大な問題を引き起こす危険性を持っている。こうした混乱が起きる原因の一つに,①ある病気が原因となって起こる病気の意味と,②手術や検査に引き続いて起こる病気の意味とを,同じ「合併症」という言葉で言い表していることがある。二つの意味を別の言葉で言い分けることも混同を回避するための一つの方法である。①の意味は「合併症」のままでよいが,②の意味には「合併症」は用いず「併発症」を用い,「手術併発症」「検査併発症」などの形で使うことが考えられる。ただし,その場合も[まずこれだけは]などに示したような説明を添えることが必要である。
ここに注意
  1. ②の意味に「手術合併症」を使えば,①の意味との混同を回避できる面はある。しかし,現状では医療者は「手術合併症」を略して「合併症」と言うことが多い。①と②の意味を区別するには,「合併症」という言葉を含まない言葉を使う方が効果的であり,語形が同じであることから来る混同は回避できる。
  2. ②の意味について「偶発症」という言葉が使われる場合がある。しかし,「偶発症」は偶然に起こった症状,つまり原因がない症状という意味に受け取られてしまう。②の意味すなわち「併発症」の原因は手術や検査であるので,「偶発症」という言葉は,使わない方がよい。
  3. ②の意味について「続発症」という言葉を使う医療者もある。しかし,「続発」は「交通事故が続発する」のように同じ悪いものが続いて起こる意味があり,「続発症」は「同じ病気が度々起こる」と取られやすい。これに対して「併発」は別のものがほぼ同時に起こる意味が強く,「合併症」の代わりとなる言葉としてはふさわしい。
  4. 手術や検査の際のミスによって別の病気になってしまった場合を,「合併症」「併発症」「偶発症」などの言葉で表現してはならない。この場合は,「手術や検査の際に,○○○○のミスが起こり,これが原因で△△△症になりました」などとはっきり伝えるべきである。
  5. 医療ミスと考えてしまう誤解は,手術や検査の後に実際に病気になった時点で生じる。この誤解を防ぐためには,手術や検査の前のインフォームドコンセント(説明と同意)(→49)の際の説明を適切に行うことが必要である。手術や検査の後に「併発症」が起こる危険性は,発生する確率で示すのも効果的である。その際,紙に書いて渡すなどの工夫を行うことも効果的である。「併発症」の起こる危険性を,患者が十分に理解できる工夫が必要である。
©2008 The National Institute for Japanese Language